来客

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父親と母親は、引っ越し業者の人に家具の置き場所などを指示したりして大変そうだったが、嬉しそうだ。 僕はその顔を見ながらまた (あ~あ) と漏らす。 この家は中古物件だ。新築ではない。元々、四人家族が建てた家なのだが、二人の子供達が巣立ち残された老夫婦は、暫く二人で暮らしていたが、高齢となり長男夫婦の元に引っ越したのだ。古くて取り壊すことも考えたようだが、リフォームをして売ることにしたらしい。その半年後にすぐに買い手がついた。 しかし、その買い手は問題ありの家族だった。 子供が一人の三人家族だったが、父親の家庭内暴力が酷く、それに嫌気がさした母親は子供を置いて出て行ってしまった。 残された子供は、見るに堪えない暴力を父親から受けていたが、何とか中学を卒業するまで耐えてた。しかし、我慢の限界に来てしまったのだろう。高校に進学することもなく家を出てそれきり行方不明。一人残された父親は、女を連れ込んだりと好き放題していたが、その後の事はよく分からないという。いつの間にかいなくなっていたらしい。 そして空き家になった。 その家族の家財道具は、あの不動産屋さんの会社が処理したようで、この不動産屋さんは毎回お客を連れてくると、呪文のようにこの内容をお客さんにする。 (ここまで説明するのだろうか) だから、僕はこの家の事をよく知っている。 (次はこの家族か) 僕は開きっぱなしになっている玄関付近を見ていた。蟻のように大小の荷物を運び入れる引っ越し業者を見ながらまた、ため息をつく。
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