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午前6:15 朝食
我が家には、ルールがある――。
父、母、私、弟は、いつも通り自分の席に着く。
テーブルの上にご飯はない。
あるのは、人数分の白い紙とボールペンだけだ。
「投票を始める」
父の掛け声で、私達は紙とボールペンを手に取る。
それから5分もしないうちに、私達が紙を裏返しボールペンを置くと、母は紙だけを回収した。
「開票します」
母は回収した紙を見ながら、用意していた別の紙に何かを書き始める。
やがて何かを書き終えると、母はボールペンを静かに置いた。
「本日の朝食は……パン、ソーセージ&スクランブルエッグ、ミニサラダ、となりました」
そう言って母はキッチンへ向かい、父は新聞を取りに行った。
「またパンかよー」
米派の弟が大きなため息をつく。
「仕方ないでしょ。投票で決まったんだから」
「でもさー、たまには朝米食べたいじゃん」
「そんなに食べたいなら、自分で用意すればいいでしょ?」
私の言葉に「めんどくさい」と弟は口を尖らせる。
「お母さんだって大変なんだよ? これくらい協力しようよ」
「でも、毎食っていうのもな……」
「それはそうだけど……。元はと言えば、私達のせいだし」
ちらっとキッチンに目をやれば、鼻唄を歌いながら朝食の準備をする母の姿が目に映る。
「“何でもいい”って言わなければ、投票なくなるんじゃない?」
弟の提案に少しだけ可能性を感じたが、私は首を振った。
「便利だとわかってる言葉は、また使いたくなるものだよ」
「だめか」と落ち込む弟のそばを、新聞を読みながら父が通る。
キッチンからは「できたわよー」と言う母の声。
それを合図に私がキッチンへ入れば、待ってましたと言わんばかりに、おかずが盛られた皿を母に渡される。
「お願いね」
そう言った母の笑顔は、今日も生き生きしていた。
我が家には、ルールがある。
それは“何でもいい”という、便利な言葉に困った母のため――。
父が思い付いた、ちょっと変わった優しいルール。
今日も、ご飯作ってくれてありがとう。
「「「「いただきます」」」」
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