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突然の夕立で飛び乗ったバスの中は、蒸し暑くて騒々しくて最悪だった。
水分を吸って重たくなったコンバースも、胸焼けのしそうな香水の匂いも。
その時たしかに触れてくる全てが、不快なもので満ち溢れていたはずなのに。
気が付けば全ての感覚は消失して、車窓越しの雨の隙間に、俺の視線は釘付けになった。
あの日。
黒髪から滴る雨粒。
鈍色の瞳。
握りしめた茶色の紙袋。
動き出した景色の向こう側で、
何かが────心を突き刺した。
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