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「あっ、鍵がないんだった」
そう言って、僕の親友である洋介は嬉しそうな笑みを浮かべる。
洋介の住んでいる二階建てアパートの部屋の前。僕は哀れみが混じった目を洋介に向けていた。
「またかよ。だらしないな」
「ははは。ごめん」
いつも通りに焦る様子もなければ、探す様子もなく――洋介は上がってきたばかりの鉄階段へと戻っていく。どうせ戻ってくるのだから、この場所にいようかと思ったが、落ち着かない気持ちに負けて僕も洋介の後に続いた。
階段を降りていく洋介の背を見て、僕は高校時代はもう少し広かったはずだと胸が痛みだす。年々その背が僕には、小さく丸まって見える気がしていたからだ。
アパートの階下にある簡易ポストを前にすると、洋介は自分の部屋番の書かれた扉を開く。これも毎年の流れの一つだった。
「あった」
洋介が薄汚れた白猫のキーホルダー付きの鍵を手に取ると、僕に見せびらかすように揺する。その目は歓喜と安堵に揺れ動いていた。
「良かったじゃん。今年も来てくれたんだな」
僕は余計なことは言わずに、懸命に笑みを生み出す。
「ああ、そうみたいだ」
そう言って、洋介はギュッとその鍵を握りしめ階段を上がった。
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