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「どうしたソラ、難しい顔して」
咀嚼の最中にそう聞かれて、僕は口の中のものを水で飲み下した。
「脚が口の中に引っかかるんだよ」
「あぁ、できれば脚は取ってから調理してほしいよな」
やはり不快に感じているのは僕だけではないようだ。幼馴染みのシドは舌で頬の内側を舐めた。
「脚だって無駄にはできないだろ」
「そりゃあそうだけどさ、脚だけ潰してすり身にするとか、なんかあるだろ。口の中が細かい傷だらけだぜ」
シドの頬の出っ張りが生き物みたいに移動するのを見ながら、僕は2つ目のフライを口に運んだ。
「一昨日のフライの方が良かったよな。外はサクサク、中はクリーミーでさ。俺は脚のない虫の方がフライ向きだと思うな」
シドはそう言ったが、僕は口の中に広がるそのクリームの正体を考えずにはいられなかった。かといって食べないわけにもいかず、何も考えないようにしながらそれを水で流し込んだ僕には、一昨日のそれより今日の献立の方がまだマシに思える。
内臓感を残さない昆虫の方が食べやすい。
「まぁでもお前はいいよな、農場に行きゃあ美味い肉が好きなだけ食えるんだから」
羨ましげに言われ、僕は思わず微笑んだ。
農場行きの船が出るのは1ヶ月後だ。志願して乗組員に選ばれた僕は、現地で新鮮な肉や魚にありつけることが約束されていた。
そうなればもう、汚染された野菜やまずい人工肉、そして虫を食べる生活から解放されるのだ。
食料自給率が低下の一途を辿る僕たちにとって、農場は最後の希望であり憧れの桃源郷だった。
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