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僕が生まれる前から、この世界は破綻していた。
無秩序な開発と建設のため森林が伐採され、工場や家庭が垂れ流す排水で水質も汚染された。
生態系は破壊され、砂漠化が進んで農耕地は減少。反比例するように世界の人口は増加の一途を辿り、各国の有識者が警鐘を鳴らし始めたときには既に、環境汚染による食糧難はきわめて深刻な状態だった。
総力をあげてそれを解決しようとすれば、まだ間に合ったのかもしれない。でも、各国の指導者が考えたことは、どこの国もほぼ同じ。
他国の人口を減らし、残された資源と食料を奪い合う、泥沼の世界大戦が勃発した。
世界の人口が約半分以下にまで減ったところで、ようやく戦争は終結。疲弊した大地に残されたのは、深刻な土壌汚染と食糧危機だった。
世界中の国が持てる限りの兵器を使用したことで、動物や魚はほぼ死滅し、汚染された土壌からは有害物質を含む野菜しか収穫できなくなった。その野菜を食べるうちに、行き残っていた動物たちもばたばたと倒れ、繁殖能力を失って次々に絶滅していった。
科学技術を駆使しても、もうこの星で充分な食料を確保するのは不可能だと判断した世界政府が打ち出したのが、「農場計画」。
食料となり得る生物がいる他の惑星を侵略し、その星をまるごと農場にするという大プロジェクトだ。
政府は過去二十年でいくつかの候補をピックアップし、綿密な調査の結果、農場にする惑星を決定した。その星には豊かな資源があり、我々の食料となり得る動植物がほぼ手付かずの状態で残されているという。
特に、良質なタンパク質と脂質を含む中型動物が他の候補より抜群に豊富だということが、農場選定の一番の決め手だったと公表されている。
ほとんど口にすることのできない食肉への渇望は、この星に住むほぼ全ての者にある。農場行きの乗組員に選ばれてからというもの、顔も知らない相手に嫉妬や羨望の言葉を投げかけられたことも、一度や二度ではなかった。
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