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「そういやソラ、お前もう農場行きのこと、家族に話したのかよ?」
シドにそう聞かれ、僕は黙って俯いた。
「はぁ? マジかよ。だってもう出発は一ヶ月後だぜ?」
「わかってるよ。タイミングを計ってたら、言い出すチャンスがなかっただけだ」
「お前のお母さん、ちょっと変わってるもんな。もし俺が受かってたら、家族で大喜びだったと思うけど」
変わってる、と言われて、僕はさっきの虫の脚が胸に引っかかったように感じた。うちが普通じゃないことなんて、わかってる。でも、他人に言われると、やはり気分のいいものではない。
「僕、もう行くよ。今日は肉の販売日だから」
僕が席を立つと、シドは何かを言おうとしたけど、その口で微笑んで
「レミちゃんによろしくな」
と送り出してくれた。
僕は軍の訓練施設を出ると、裏手にある食肉販売窓口に向かった。
一週間に一度、昼の短い時間だけ特設されるこの窓口では、貴重な肉が買える。世界中の食用動物はほぼ絶滅したものの、うさぎやネズミなどの小動物はまだどこかで細々と飼育されているらしい。とはいえ希少価値で高価なので、一般人はなかなか購入することができない。
それを優先的に買えると言われたことも、僕が軍に入隊した理由の一つだった。
二十分ほど並んで、手のひら大の干し肉を買った僕は、その包みを握りしめて訓練施設に戻った。午後の訓練開始まであと五分しかない。
塩がまぶしてあり、いかにも美味しそうな干し肉に口の中が唾液でいっぱいになったけど、これは僕が食べる肉じゃない。
一年経ったら僕は、農場でいくらでも肉が食べられるんだから。
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