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「じゃあ……レミはどうして歩けもしないんだよ」
そんなつもりはないのに、脅すような低い声が出た。重ねられた母の手が、ピクリと揺れた。
八つ年下の妹はずっと野菜だけを食べて育ち、いつも青白い顔で寝てばかりいる。体重を支えられるほど脚が発達しておらず、誰かの手助けがないと立ち上がることもできない。
母さんは良かれと思ってせっせと野菜を調理してレミのベッドに運んでいるけれど、僕はそれを見るたびに、また妹の身体に毒が溜まるとしか思えなかった。
「あの子は生まれつき身体が弱かったのよ。でもあの歳まで生きてこられたのは、肉や虫を食べてないおかげなのよ?」
僕は閉口した。五年前に死んだ父さんも、野菜の毒が蓄積した中毒死だと医者に言われたのに。母さんはきっとそれについても、医者は政府と繋がっているんだからとか言い出すに決まってる。
僕がここまで育ったのは、貧相な僕を哀れに思ったシドのおばさんが、内緒で食事を分け与えてくれていたからだ。ご近所の関係が悪化するのを恐れる彼女から口止めされていなければ、とっくに真実をぶちまけていただろう。
「母さん……分かり合えるとは思ってないよ。でも頼むから、邪魔だけはしないで。乗組員に選ばれるために、僕はすごく努力したんだ。本当は褒めてほしいくらいだけど、そんなことは望まないから。母さんが認めてくれなくても……僕は農場に行くよ」
母さんは大きなため息をついた。そうしたいのはこっちの方だけど、僕はそれを飲み込んだ。
ベジタリアンというものを、僕は否定するつもりはない。誰にでも主義主張があり、生き方を選ぶ権利がある。
動物を殺すのはかわいそう、という気持ちもわかる。でも、大切なのは無駄な殺生をしないことだ。必要な分だけを狩り、いただいた命に感謝することこそ、子どもに教えるべきじゃないかと僕は思ってる。
何もわからない子どもにまで親の主義を押し付けるべきじゃないし、少なくとも子どもの成長に、動物性タンパクは絶対に必要なんだ。
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