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母さんとの関係は、小康状態だった。
必要最低限の会話はするけれど、農場計画や僕の旅立ちについては互いに触れない。
僕は毎日母さんの作る野菜料理を食べ、軍の施設で訓練と勉強に励んだ。
乗組員に選ばれた僕は、シドとは完全に訓練のコースが分かれ、顔を合わせるのは昼休みの食堂でだけだ。豆から作った人工肉のソテーを食べながら、シドはレミの具合を聞いてきた。
「週に一度肉を食べるようになってから、だいぶ顔色が良くなったよ。もっと早いうちからちゃんと食べさせていれば、学校にも行かせてやれたかもしれない」
「無茶言うなよ、あんな高いもん。入隊前に買えるもんでもねぇし。毎週並んで買ってやってるお前は充分いい兄ちゃんだよ」
幼馴染みに労われ、僕は照れ臭いながらも嬉しかった。内緒でレミに肉を食べさせていることがバレたら、母さんは怒り狂うだろう。
来月からその役目を、シドに代わってもらう約束になっている。身内に頼めない僕に全面的に協力してくれるというこの幼馴染みは、母親に似て底抜けに優しいのだ。
今にして思えば、この慢性的な食糧難の状況下で、ただ息子の幼馴染というだけの僕に貴重なタンパク源を与えてくれたシドのおばさんは稀有な存在だ。
シドは筆記試験で落ちて乗組員になれなかったが、おばさんは僕の合格を実の息子のことのように喜んでくれた。
僕が農場行きを志願したのは、レミに新鮮なものを食べさせたいという希望ももちろんだけど、シドのおばさんに恩返ししたいという気持ちもあった。農場からシドにも食料を送るからと約束すると、シドは涙を浮かべて「レミちゃんのことは任せろ」と言ってくれた。
その言葉のおかげで、僕は安心して旅立つことができる。
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