第1話 騎士には剣を――― 作家にはペンを―――

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「なッ・・・・・・」  無謀ともとれる動きに男は目を見開き、驚き動きが一瞬止まってしまった。女はその一瞬を見逃さなかった。男の剣を受け流したと同時に、間合いを詰める。狙いは男の腕であった。剣を持つ利き腕。女は迷うことなく、その腕に剣を振り下ろそうとする。 「そこまで!」  戦いを止めたのは行く末を見守っていた王子であった。彼は審判も兼ねて、この御前試合を見守ってた。そして、これ以上の勝負は不要と判断して戦いをやめさせた。 「この勝負、クラウディアの勝利とする!」  女は―――クラウディアは王子の声を合図の剣を止める。あと少し、試合終了の声が掛からなかったら、目の前の男の片腕を切り落としていたことだろう。 「命拾いしたな」  クラウディアは冷淡に言い放ち、剣を鞘に収める。終始、彼女に圧倒された男は何も言えなかった。  自分は騎士である。戦いの場で腕の一本、切り落とされることは覚悟の上でいた。だが、御前試合とはいえ、腕が落とされそうになるなど、全く想像していなかった。 「うぐ!」  腕は無事だった。しかし、男の中にあった騎士としてのプライドは間違いなく壊された。  悔しい。女を相手に負けるなど、これまでの騎士道人生における、最大の屈辱でしかない。だが、その怒りを地面にぶつけることもできない。何故なら、その怒りをぶつける腕も場合によっては失ってたかもしれないからだ。その失っていたであろう手で地面を叩くことは、自分自身がさらに屈辱にまみれることにほかならない。  コロシアムの扉が開かれ立ち去るクラウディアに惜しみない拍手が送られた。いい試合を見せてもらった。観客たちは口々にそう言った。 「さすがは、騎士団長殿だ」  観客として招かれた貴族は唸るように闘技場から立ち去る女を見届ける。御前試合の最中もそうだったが、コロシアムから立ち去る、振る舞いでさえ完璧だった。その姿は、腕の立つ画家が描いた一枚絵の騎士の姿のようだ。凜々しく、誇り高く自信の力にうぬぼれることもない真っ直ぐな信念を心に持つ。まさしく、騎士の鑑である。
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