第1話 騎士には剣を――― 作家にはペンを―――

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「あれが王国騎士団団長、クラウディア・マール殿か」  ウワサには聞いていた。王国にはクラウディアという女騎士がいると。王国の英雄、その再来ともまで謳われた彼女。コロシアムで御前試合を見るまでは、誇張されたウワサだけの騎士だと思っていた。しかし、彼女の戦いぶりは間違いなく、その称号を与えられるに相応しい。  御前試合とはいえ、一切妥協することなく相手を討ち取ろうとする覚悟と気迫。最近の騎士にはそれが欠けていた。もっとも、自分の甲冑を盾にして間合いを詰めるといった諸刃の剣の戦法をとるなど、やりすぎな面も見受けられたが。それでも、クラウディアの戦いは評価に値するものであった。  今一度、平穏な世の中に慣れてしまった騎士たちにクラウディアの戦いぶりを見せてやりたいものだと、言う者もいた。 「クラウディア。いい試合だったよ」 「エリック王子」  コロシアムを出て自分の部屋に戻ろうとするクラウディアを呼び止めたのは、先程試合の終了を告げた王子であった。王国王位第一継承者のエリック・ワードを前にして、クラウディアは片膝をつき頭を下げる。 「もったいないお言葉、ありがとうございます」  御前試合の直後、エリック自ら、騎士を褒めにくることなど滅多にない。それに、王国に命を預け、戦うのが騎士の使命である。今更、褒められるほどのことではない。 「クラウディア。そんな態度はよしてくれ、ボクと君の仲ではないか」  エリックは改まった態度をとるクラウディアに対して言った。 「ですが」 「君は王国の騎士団長である前に、未来の妃なんだろう。クラウディア」  エリックはそう言って、クラウディアの顎に手を当てると、彼女の目を自分に向かせる。クラウディアの碧眼の目がエリックの燃えるような赤い目に合う。 「うううう」  赤い目を見ていると、クラウディアの凜々しい顔が赤くなった。 「じょ、冗談はよしてください!王子!私はまだ、王子の妃になれるような器ではありません!この剣を手にした時から、王国に命を捧げると決めました。まだその役割を果たしておりません!」  エリックの手を払い、クラウディアは顔を手で隠す素振りをしながら言う。これ以上、赤い自分の顔を見られたくはなかった。  そんなクラウディアに対し、エリックは真っ直ぐな瞳で言う。
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