第1話 騎士には剣を――― 作家にはペンを―――

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第1話 騎士には剣を――― 作家にはペンを―――

 剣―――それは騎士にとって誇りであり、命である。王より剣を授けられるということは、その者にとって最高の名誉。そして、誓いである。一度、剣を手にしたのならば、その命は王国に捧げなくてはならない。  それが王国の騎士たる存在だ。  石造りのコロシアムはもう何百年も前から存在していた。かつては、囚人や奴隷を集め血なまぐさい試合をさせていたと聞く。  今にして思えば、それは野蛮な行為に他ならない。人はそれを喜び、楽しんでいたのいうのだから。呆れる。 「どうした!脇が甘いぞ!」  血なまぐさい逸話が今でも残る、コロシアムで金髪の女が剣を振るう。戦いの邪魔にならぬよう長い髪を後ろで束ね白銀の甲冑を着こなし、大の男を相手に少しも臆することなく戦う。彼女は男と同じ両刃剣を使っているというのに、その剣筋は男の上を往く。男は女に舐められまいと剣を振るうが、その剣筋には雲泥の差がある。  一言でいってしまえば、美しくない。女の剣筋が、妖精が振るうタクトに例えるなら、男は乱暴に棒を振り回しているだけのオークだ。品の欠片もない。そのような粗暴な剣筋しか繰り出すことができない男の刃など、女に届くはずもなかった。  いや、届いてはいる。だが、女の命を奪うまでには至らない。  女は真正面から受け流していた。剣を真正面から受けるなど、騎士たちの間では非常識に見える。どんなに硬い素材で造られた甲冑であったとしても、衝撃までは防ぐことはできないからだ。それを女は剣の動きに合わせて、瞬時に身体を傾けることで受け流してしまう。剣先は甲冑の胸当てを滑るように横切るだけに留まり、決定打を与えるには至らなかった。真剣を用いての命懸けの戦いの場でそのような行為に走るなど、正気の沙汰ではない。一般の騎士にそれを実行に移すだけの度胸などありはしない。それを、女は迷うことなく実行してしまう。
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