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女公爵と夫様方の異名
「良いか?お前は出来損ないだ。姉エリア·ラナの邪魔をするでない!」
「はい。申し訳ありません」
父のギトス大公に呼び出され、夜会のダンスホールから出て小部屋に行きましたら叱られました。
おそらくメーメルンの次期公爵になられるアシュレイ様を、姉様がお気に召したのでしょう。
もしかしたらアシュレイ様も折れるかもしれませんね。
…望みは薄い気もしますが。
挨拶をして部屋を出ようとしましたら
コンコンコン
「失礼します。こちらにフィーナ·メイ公女とギトス大公がいらっしゃるとお聞きしたのですが…」
と、アシュレイ様がいらっしゃいました。
「私はアシュレイ·アルト·メーメルンと申します。公女を妻に望んでいるのですが許可を頂けませんか?」
「!勿論良いですぞ!ラナも承諾するに決まっておる。メイ。ラナを呼んで参れ。アシュレイ公子が結婚を望んでいる。と言うのだぞ?」
「え?いえ、私が望んでいるのはフィーナ·メイ公女ですよ?」
「…は?」
お父様が固まっています。
私は聞かなかったことにしたいです。
風当たりが酷くなることが解っているので。
ですがアシュレイ様は私の壁を次々破壊して、堀を埋めて逃げ場をなくしていきます。
突貫工事が凄まじく、ほんとに流された方が楽な気がしてきました…。
「フィーナ·メイ…だと?!お待ちください!メイは魔法が使えません。そんな欠陥品の公女を嫁にするなど」
「それは"メーメルン"が欠陥品だらけだ。という意味ですかね?…それ、母である女公爵の前で言えますか?」
そしてジーーーっと頭を見ています。
するとお父様が顔をひきつらせ、慌てて頭をガードするようにして抱え込みました。
…?
なんなのでしょうか。
汗もかいておられます。
「我がメーメルン領は魔法貯蓄症の者が大半です。欠陥がある。ということは、メーメルン領民は欠陥だという見下しですよね?もしかして…母上に喧嘩売ってます?この頃『退屈だ~』と仰ってるので、喜んで貯蔵している"ツルツル薬"を持ち出してくるかもしれませんね」
「?!ツ、ツルツルぅ~?!恐怖の悪魔の薬がばら蒔かれる…!メイは喜んでアシュレイ公子にあげよう!うんっ!公爵と争うつもりはないぞ?是非!悪魔の薬は未来永劫封印してくれ!!!」
お父様はそう言うと頭を庇いながら、ヨロヨロした足取りで部屋から飛び出ていきました。
アシュレイ様に手を引かれ、ダンスホールに戻る道を辿りながら
「アシュレイ様。ツルツル薬とはなんでしょうか?」
とお聞きしました。
すると
「…とんでもない恐怖を覚える錬成薬。フェイデの皇帝もイージュの王も薬の被害者なんだ。…まあ、母上と父上たちと争ったからぶっ掛けられたらしいけど。父上たちはコッソリ"シワシワ薬"を持ち出してるよ。…アレも悪魔の薬だ。妖精たちのオモチャになってる…」
「…妖精…」
滅多に見られない妖精のオモチャ、ですか…。
「母上の側に引っ付いてる、四角い錬成物あるでしょ?お茶とか運んでくるヤツ。アレが変型するとみんな逃げるよ?ツルツル、シワシワ、チビチビの弾を打ち出してくるんだ。変型したときは母上父上たちが怒ってるときだ。美神悪魔三人組の異名は伊達じゃない!」
魔王を泣かせて逃げたのを取っ捕まえてしばき倒した。
有名なお話ですが、関係者からお聞きしても実感は湧きませんが…目の前の
"事柄"
を見ておりますと、なるほどと頷けました。
「申し訳ありませんでしたー!メーメルン公爵!!!」
ホールのど真ん中で、頭がツルツルのご年配の方が女公爵に向かって土下座をしておりました。
物凄くお年寄りなようですが、動作は機敏で見た目よりお若いのでしょうか…?
「…あ~あの方、やると思った…」
アシュレイ様は額を押さえておりました。
「母上、我が親ながら美人でしょ?で、旦那が二人。スキモノなんじゃないかと勘違いして、母上に言い寄る人が結構いるけど…実際は、父上たちが粘着して離れなかっただけだから、言い寄られるのは真っ平ごめん!な人なんだよね。しかも領地の運営は父上に丸投げしてても頭が悪いわけじゃないから、チョロいと勘違いするとああなる。俺も母上父上とまではいかないけど、頑張るからね?!仲良くしよう!」
………ここで返事をしたら
"嫁OK!"
と言う返事な気がして、一言も言えません。
目をキラキラさせているので、強ち私の自意識過剰でないと思います。
どうしたらよいのでしょうか…。
素直に諦めるのも、なんか悔しいですしね…。
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