満月の夜は君を想う

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 それ以来、沙耶香は満月が嫌いになった。見る度に、良紀に手痛くフラれてしまったことを思い出してしまうから。  大学では、そんな良紀との思い出を打ち消すようにハメをはずした。勉強はそれなりにしていたけれど、友人からの遊びの誘いがあれば、断ることはなかった。そんな中で、何人かの男性とは付き合ったりもした。でも、長くは続かなかった。  大学を卒業し、会社員として数年間勤務した沙耶香は、この冬、故郷へ帰ることになった。母の体調が思わしくなく、家族の支えになればと思っての決断だった。最寄りの区役所へ手続きに行くと、月曜日のためか、窓口には多くの人が待っていた。 「38番の方、窓口へどうぞ」  番号札を持って行った沙耶香は、窓口の男性職員を見て驚く。 「良紀君……」  グレーのスーツ姿の良紀は、記憶の中の姿より大人びて、男らしくなっていた。沙耶香を見て、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐ事務的な応対をする。 「今日はどのようなご用件でしょうか?」  住民異動届の手続きの間、いろいろな思いが沙耶香の胸中を去来する。将来は司法試験を目指していたであろう良紀がどうして区役所にいるんだろう。どうしても気になって、帰り際につい良紀に質問する。 「あの、少しお話しできませんか?」 「今は勤務中ですので……」  それでも、粘り強く交渉する。 「それでは、終業後ではいかがでしょう?」 「ーーでは、6時に区役所の玄関前で」  「わかりました」  沙耶香は一度帰宅してから、6時前に区役所にやって来た。建物の前のベンチに座っていると、少し遅れて良紀が現れる。 「ごめん、少し待たせたね」 「いえ、さっき着いたところだから」  二人は駅に面した公園を歩いていた。なんとなく気まずい雰囲気の中、沙耶香が口火をきって話しかける。
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