満月の夜は君を想う

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吐く息が白く、頬に吹く風は冷たい。空には満月ーーいつものように沙耶香と良紀は、月明かりの下、図書館から家に向かって歩いていた。  二人が知り合ったのは、高校2年の夏だった。沙耶香は宿題に必要な歴史の本を借りようと公立図書館に行った。書架からその本を借りようとした時、一足先にその本を取られてしまう。 「あ、その本……」  制服を着た男子が沙耶香の方を向いた。 「この本がどうかしたの?」  メガネの奥から優しげな目が問いかける。 「あの、その本、宿題に必要で……」 「そう……じゃあ、君に譲るよ」  そう言うと、本を差し出してくれた。 「でも、あなたの方はそれでいいの?」 「興味はあるけど、急ぎじゃないから。後で予約しておけば君の後に借りられると思う」 「ありがとう」  それから、度々図書館で彼の姿を見かけ、なんとなく言葉を交わすようになった。  彼ーー川田良紀は隣の進学校に通う高校生で沙耶香と同学年だった。良紀は東京の有名大学の法学部を目指していた。一方、沙耶香も東京の私大の英文科を目指していた。二人は第一志望の大学に受かることを目指しながら、毎週土曜日の午後、図書館で一緒に勉強していた。  良紀はメガネをかけていて、知的な雰囲気がある。少し近寄りがたい感じもするけれど、目尻に皺を寄せて笑うとそんな雰囲気が消えて、途端に親しみやすくなる。一方の沙耶香は母親ゆずりの大きな瞳にショートカットで、いつも年齢よりは幼く見られていた。沙耶香は、模擬試験では自分よりもかなり上位の良紀に、わからないところを教えてもらうことが多かったが、良紀は嫌な顔をすることなく、根気よく彼女に勉強を教えてくれていた。沙耶香の方は、そんな良紀にほのかな恋心を抱いていた。  二人は一緒に勉強をする同志になっていたが、明確な彼氏彼女という関係には至っていない。でも、良紀は彼女のことを憎からず思ってくれている、そう信じていた。沙耶香は受験が無事終わったら、良紀に気持ちを伝えようと心に決めていた。
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