水瀬①

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 これは従兄弟としてではなく、一人の男として心配をしているようだった。  だから彼は水瀬に冷たい態度をとっていたのだと気が付いた。 「あの、俺は君じゃなくて水瀬輝です」 「そう。俺は長谷隆也だ」  水瀬のほうからは敵対視などしない。だから名前を告げた。  だが、向こうはきっと違うだろう。  亮汰に甘えてそういうことをしてきたのだから、隆也に嫌われるのは仕方がない。  ふ、と、目元が柔らかくなる。警告はおわりだと告げたいのだろう。 「さて、俺は戻るが、水瀬君はどうする?」 「俺も行きます」  立ち上がると同じくらいの高さに目線がある。だが、余裕があり、男としては負けている。  亮汰が自慢したくなる理由がなんとなくわかった。  一緒に亮汰のもとへと向かうと、目と口を開いたままこちらを見ていた。 「どうした」 「どうしましたか」  隆也と声が重なり合い、互いに顔を見合わせる。 「ん、イケメン二人が並んでいると華やぐなって。女子たちがお前らを見てるぞ」  気が付けば女子の視線がこちらへと向いていた。  きっと長谷に目がいっているのだろう。 「水瀬君、かっこいいから」 「いや、長谷さんにですよ」  互いをほめるような言葉をすると、 「いつの間にか仲良くなったな」  なんて言い出すものだから、隆也の顔が引きつっていた。  さすが、亮汰だ。ナイスですと心の中で呟き、 「そうですね、すっごく仲良しです」  そうとどめを刺すようにいうと、亮汰が嬉しそうに二人の顔を見る。  亮汰が喜んでくれるなら、二人の気持ちは同じだ。にっこりと笑顔を浮かべて今度、一緒に飲もうと約束をした。  式が終わり、亮汰たちと別れて一人、車に乗り込む。  素敵な式を見たあとだけに気持ちが落ち着かず、高ぶったままだった。  こんな日に空手道場があれば落ち着けるのにと思いつつ、アドレス帳を眺める。  そこに表示されている、ある人の名前。  きっと連絡をすれば飲みに誘ってくれるだろう。  だが、画面に触れることなく助手席にスマートフォンを置いた。 <了>
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