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これは従兄弟としてではなく、一人の男として心配をしているようだった。
だから彼は水瀬に冷たい態度をとっていたのだと気が付いた。
「あの、俺は君じゃなくて水瀬輝です」
「そう。俺は長谷隆也だ」
水瀬のほうからは敵対視などしない。だから名前を告げた。
だが、向こうはきっと違うだろう。
亮汰に甘えてそういうことをしてきたのだから、隆也に嫌われるのは仕方がない。
ふ、と、目元が柔らかくなる。警告はおわりだと告げたいのだろう。
「さて、俺は戻るが、水瀬君はどうする?」
「俺も行きます」
立ち上がると同じくらいの高さに目線がある。だが、余裕があり、男としては負けている。
亮汰が自慢したくなる理由がなんとなくわかった。
一緒に亮汰のもとへと向かうと、目と口を開いたままこちらを見ていた。
「どうした」
「どうしましたか」
隆也と声が重なり合い、互いに顔を見合わせる。
「ん、イケメン二人が並んでいると華やぐなって。女子たちがお前らを見てるぞ」
気が付けば女子の視線がこちらへと向いていた。
きっと長谷に目がいっているのだろう。
「水瀬君、かっこいいから」
「いや、長谷さんにですよ」
互いをほめるような言葉をすると、
「いつの間にか仲良くなったな」
なんて言い出すものだから、隆也の顔が引きつっていた。
さすが、亮汰だ。ナイスですと心の中で呟き、
「そうですね、すっごく仲良しです」
そうとどめを刺すようにいうと、亮汰が嬉しそうに二人の顔を見る。
亮汰が喜んでくれるなら、二人の気持ちは同じだ。にっこりと笑顔を浮かべて今度、一緒に飲もうと約束をした。
式が終わり、亮汰たちと別れて一人、車に乗り込む。
素敵な式を見たあとだけに気持ちが落ち着かず、高ぶったままだった。
こんな日に空手道場があれば落ち着けるのにと思いつつ、アドレス帳を眺める。
そこに表示されている、ある人の名前。
きっと連絡をすれば飲みに誘ってくれるだろう。
だが、画面に触れることなく助手席にスマートフォンを置いた。
<了>
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