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隆也にとっては挨拶でしかない。自然としてしまうのだろうが、亮汰のように慣れていない人にとっては驚きでしかない。
「それにしても大きくなったなぁ」
としみじみと言うものだから、
「あたりまえだ。何年たったと思っているんだ」
と刺々しく言葉を返してしまった。
「そうだったね」
隆也の中では、中学生で成長が止まっているのだろう。あれから目つが悪くなったし素直さもなくなった。可愛げなどすっかりなくなってしまったのだ。
「このまま帰ってこないかと思った」
「いやぁ、向こうに居るのが楽しくてね。女性も魅力的だったよ」
やはりそうか。亮汰自身もそう思っていたというのになんだか面白くない気持ちとなる。
「へぇ、楽しそうだな」
料理の修行だけでなく、色んな意味で楽しめたようだなと、少々、軽蔑してしまう。
「ほーんと。楽しそうだこと」
と桜にまで言われて隆也は苦笑いを浮かべた。
「それよりも、亮汰、結婚おめでとう」
と抱きしめられて背中を叩かれる。
本当に喜んでくれている。互いに大人になった。しかも長い間、会わないでいたというのに、今も弟のように思ってくれているのだろう。その気持ちは嬉しいが、亮汰には複雑でもあった。
「どうも」
「もう結婚する歳なんだな」
としみじみという。
「隆也こそ、とうに子供の一人や二人いるかと思ったのにねぇ」
桜の言葉に、
「うわ、いわれると思った」
と苦笑いを浮かべた。
実際にどうなんだと隆也をみれば、その意図に気が付いたか、
「まだいないよ」
そう言葉が返る。
内心ホッとした。共に過ごせなかった時間を少しでも取り戻せたらと思っていたからだ。もしも隆也の隣に妻や子供がいたとしたら、離れていた時間を取り戻すことができなくなりそうだ。
「俺は当分いいや。桜ちゃんの子供たちと、亮汰の子供ができたら溺愛するから」
カバンを叩き、たくさんお土産を用意したというアピールをする。
「あら、じゃぁ子供たちに言っとかないと」
たかるわよと笑顔を見せる桜に、隆也はお手柔らかにと苦笑いだ。
「ふっ」
昔から仲の良い姉弟だった。またこうして一緒の時間を過ごせるのが嬉しかった。
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