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「実家はね、私の家族が一緒に住んでるのよ。だから隆也の部屋がないの」
桜の旦那は婿養子で、二人の間に三人の子供がいる。元々、親とは一緒に住むつもりだったとかで、どうせならと家を建て替えて広くした。
建て替えが終わった後、亮汰の家族が招待され、その時に部屋は全部見て回った。
「家のことは全て桜ちゃんにまかせっきりだったし、そのことに関しては俺は何もいわないよ。そういうことなら、当分の間はホテルに住むよ」
流石に亮汰に悪いというが、
「俺から言い出したんだ」
「え、亮汰が?」
流石に本人を目の前にして断りにくいと思ったか、額に手をやりため息をついた。
「そうよ。隆也が居た頃と変わってしまったから、不便がないようにってね」
「そうなんだ」
どこか困ったような、そんな表情。もしかして有難迷惑というやつだろうか。
「あのさ、隆也さんが一人がいいっていうなら……」
「いや、折角の申し出だもの。お世話になるよ」
亮汰の言葉をきるようにキッパリという。
「そうしなさいな。私もその方が安心だもの」
「はは、俺は子供かよ」
母親みたいだと桜にいうと、こんな大きな子供はいないと隆也の背中を叩いた。
「いてっ。桜ちゃんの馬鹿力」
「うるさい。亮汰ぁ、ごめんね。こんなおっきい子供の面倒を押し付けて」
「いいよ。桜ちゃんにはお世話になっているし」
隆也がいなくなってから桜は亮汰のことをよく気にかけてくれた。それでどれだけすくわれたことか。だから桜の頼みは断れない。
「ちょっと、二人とも」
流石に情けない顔で隆也が見ている。桜は亮汰と顔を合わせて笑い、
「ふふ。じゃぁ、私は帰るから」
と隆也の肩を叩いた。
「うん。桜ちゃん、ありがとうね。明日、実家に行くから」
「わかった。お母さんに言っておくわ」
玄関まで桜を見送り、手を振って別れると二人はリビングへと向かった。
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