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二人になり、互いに緊張していたのだろう。気まずい空気が漂い、それをけすかのように、
「荷物、運ぶか」
と亮汰は親指で玄関を指さす。
「あ、そうだな。拭くものをかして」
キャスターを拭いて荷物を運ぶ。
「思ったよりも少ないな」
「最低限のものしか持ってきてないから」
その言葉に、おもわずぎくりとする。
隆也は結婚式のために帰国したのだからフランスへ戻ることはあり得ること。だが、終わったらすぐに旅立つつもりなのだろうか。
「なぁ、結婚式が終わったらすぐに向こうにいってしまうのか?」
隆也の腕に手を置く。
せめて一か月くらいは日本にいて欲しい。それに、最低でも一年に一度は帰ってくるという約束をしたかった。
「そんな寂しそうな顔をしないでよ」
両方の頬を手ではさみ、ふ、と間近で優しく微笑まれて心臓が高鳴った。
「近いっ」
顔を振るい隆也の手を払って距離をとる。
流石に相手が男でも、あの距離はドキドキとする。
「あ……、可愛かったのに」
「可愛いてっ、何がだよ」
無駄に顔の良いし、久しぶりだから余計に緊張する。
「亮汰が寂しがるから、ずっと日本にいるよ」
「はっ、俺のせいにして。本当は隆也さんが寂しいんじゃないの?」
「うん。その通り」
また心臓が高鳴った。
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