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内心は嬉しいのだが、その顔を見られたくはないからだ。
「なんだ、喜んでくれないの?」
寂しいなといわれた。
「そうだな、タダで美味い物を食わせてくれるなら喜ぶかな」
「それ、桜ちゃんにも言われた」
それは当然だろう。つれないことを口にしても、本当は桜も隆也の帰りを待っていたのだ。
「皆、思うことは一緒な」
「酷いなぁ」
と苦笑いを浮かべる。
「酷いのは隆也さんだろう。何年も連絡をよこさねぇし。薄情だなって思ってた」
「ごめん。向こうにいたら楽しくて」
家族や亮汰がいる場所よりも、フランスのほうがそんなによかったのか。あまりにもつれない答えだ。
胸がちりちりとする。表情や感情を抑えることができても、奥深くで燻る。
隆也は別に亮汰に会いたくはなかったのだろう。自分はこんなにも会いたいと思っていたのに、その温度差が気持ちを落ち込ませる。
「亮汰、どうした?」
顔を覗きこまれ、別にと返して背ける。
「そうだ。相手の人、どんな子なの? 写真見せてよ」
と今度は自分の掌に合わせた。
「あー、これ。彼女の名前は唯香っていうんだ」
スマートフォンから画像を表示する。家族と唯香、一緒に撮った写真だ。
「へぇ、唯香ちゃんか。可愛いね」
「まぁな。笑顔がとても優しくて可愛いんだ」
「そうか。だから亮汰が惚気るわけだ」
その言葉に口角をあげて、スマートフォンをポケットにしまう。
その仕草でなんとなく言いたいことが伝わったか、隆也は口元に笑みを浮かべた。
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