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「あ、隆也さん疲れているだろう」
フランスから日本まで飛行機で十二時間以上かかるのだ。移動だけでも相当な時間がかかっている。
はやく休ませてあげるべきだった。
「そうだな。飛行機で寝ていたが、流石に疲れたかもしれない」
「隆也さんの部屋なんだけど、和室でも平気?」
「和室があるんだ。いいねぇ」
とドアを開いて部屋の中を眺めている。
「もしも眠れなかったら言って。俺がこっちで寝るから」
「大丈夫。昔は敷き布団で寝ていたんだし。お、文机だ」
仕事をしたいときに使って貰おうとおいたものだが、イイねといいながら机を撫でる姿を見ると、どうやら気に入ってもらえたようだ。
「あぁ。日本に帰って来たって実感する」
と布団にめがけてダイブする。
「寝るなら風呂に入ってからにしなよ」
「うん。そうだ、一緒に入るか?」
小さな頃みたいにと、ニッと笑った。
「風呂の準備しておくから」
それには答えずに部屋を出ようとすれば、つれないなといわれる。
子供の頃とはわけが違う。大人になってしまったこの身体を見せるつもりはない。
襖をしめようと振り向くと、隆也は掛け布団の上に横になったまま眠っていた。
やはり疲れていたんだなと、寝室から自分の使っている毛布を持ってきて隆也に掛けてやる。
寝顔を見るのも何十年ぶりだ。かっこよくて自慢の従兄のまま目の前に現れた。
「お帰り。隆也お兄ちゃん」
そっと前髪に触れる。この感触はけして幻ではない。
ギュッと拳を握りしめる。この喜びをじっくりとかみしめて、
「おやすみなさい。また明日」
と言葉を残し、亮汰は部屋をでた。
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