手ぐすね引いて待つ

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「王様」 「え、王様にお知り合いがいるんですか。すごっ」  素直に信じたか。それが仕事の時だとしたら、冷静に判断し、時に疑うのも必要だという所だ。 「はは、お前は単純だな」  と髪の毛を乱暴に掻きませると、鳥の巣が一つ出来上がった。 「伊崎さぁん」  情けない表情を浮かべる水瀬に、休憩といって部屋を出た。  休憩スペースには自販と喫煙室、給湯室とあり、ベンチとテーブル席が設置されている。休憩する時間は自由なので、煙草を吸いにきたり、何か飲みながらスマートフォンを弄っている人もいる。  だが、タイミングよく誰もおらず、ベンチに腰を下ろしてスマートフォンを見る。  画面には先ほどのメッセージが表示されたままとなっていて、それを手の中で抱きしめた。  亮汰には大好きな従兄がいた。  長谷隆也(はせたかや)は三歳年上で、亮汰を本当の弟のように可愛がってくれた。  亮汰はとても懐いていて、嫌われないように隆也の前ではいい子に振る舞ったものだ。  だが、高校を卒業し、料理人になるとフランスへ行ってしまった。  その時はすごく寂しかったけれど、隆也がやりたいことだから応援してあげようと、泣くのを我慢したものだ。  何年かの我慢。修業を終えたら日本に帰ってくるだろうと思っていたのに、向こうでの生活が合っていたのか、帰ってこなかったのだ。  それでも数年は待っていた。だが、時が立つにつれ、戻ってくると期待をしては駄目だと、諦めかけてきたところだった。  だから桜から連絡を貰った時は、心が沸き立った。  会えるのだ、隆也に。  亮汰が三十二歳になるのだから、隆也は三十五歳か。  男惚れする、隆也はそんな人だった。そして亮汰に優しかった。
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