手ぐすね引いて待つ

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「もうすぐだな、結婚式」 「うん。伊崎家の家族になれるの、すごく嬉しいよ」  結婚後は家に入ることになっている。母親と唯香は仲が良く、すでに本当の母と娘のようになっていた。  唯香が料理を温めてテーブルに用意してくれる。  座っている間に暖かい食事がだされる、それも一人ではないのだ。なんて幸せな時間だろう。 「頂きます」 「前よりも美味しいと思うよ」  初めて作った煮物は味が濃くてしょっぱかった。だが今は出汁がきいていて、味付けも丁度良い。 「うん、美味い」 「よかった」  胸をなでおろす仕草が可愛い。本当に良い子が伊崎家の嫁にきてくれたと思う。  唯香をみたら、でかしたといって褒めてくれるだろう。 「あら、亮ちゃん、なんか嬉しそうね」  そう頬を突かれる。 「いや、いい嫁を貰ったなって」 「やだ、亮ちゃんったら」  照れながら背中を叩く。性格もよくて可愛いなんて、本当にいい人と巡り合えたものだ。 「水瀬に感謝しないと」 「あはは。亮ちゃんに感謝されたら、輝くん、尻尾振って喜んじゃうよ」  亮ちゃんのことが大好きだものねと笑う。 「御馳走様」 「はい、お粗末様」  洗い物を済ませ、リビングで話しながらお茶をのむ。  大抵は唯香が話し、亮汰が聞くというかたちとなる。  ひと通り話をして、スッキリしたようだ。 「ごめんね。愚痴っちゃって」 「いいよ。この頃は忙しくて話も聞いてやれなかったし」 「亮ちゃん、優しい」  大好きと軽くハグをする。  甘えられて悪い気はしない。亮汰も軽く腕を回して背中をぽんと叩く。 「さてと、そろそろ帰るね」 「悪いな。ゆっくりしていけと言えなくて」 「いいよぉ。顔が見れたから。ただし、駐車場まで送っていってね」  と亮汰の腕に腕を絡める。 「わかった」  亮汰のところまではいつも車でくるので駐車場まで送り、またなと手を振って別れた。
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