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繁忙期に入ってからあっという間に時がたつ。あまりの忙しさに時間が足りないとおもうほどだったから、そう感じるのだろう。
忙しさもピーク時に比べたらましになった。残業はまだ続けなければならないが、泊まり込むほど遅くまで仕事をすることもないだろう。それだけで気持ちが楽になる。
「はぁ、疲れましたねー」
余裕が生まれたから出た台詞。忙しい間は暗黙のルールではないが、誰一人としてそれを口にする者はいなかった。
「あとひと踏ん張り。社長と加藤さんから美味しいご褒美が待っているだろう?」
「そうでしたね。俺、皆と飲むの好きです」
「おー、俺も楽しみだわ」
と後ろから声がする。
「加藤さん」
「おう、お疲れ。ほら、差し入れだ」
ダックワーズを手渡される。アーモンド風味のメレンゲを使った焼菓子で、日本生まれのフランス菓子だ。
「ありがとうございます」
加藤の同居人はパティシエで、練習で作ったものや、訳あり品を持ってきてくれる。
甘いモノすきが多いので、皆、差し入れに喜んでいる。
お菓子一つでもやる気の素になる。机にだらっとしていた水瀬が背筋を伸ばした。
「やる気出ましたっ」
そう元気よく告げる姿に、げんきんだなぁと誰かが口にして笑う。
もうひと踏ん張り頑張ろう、お菓子と水瀬の明るさが周りをそうさせた。
本当にいい仕事をする奴だ。
加藤もそう思ったか、亮汰にニッと笑い水瀬の頭を撫でて他の人の元へと向かう。
「撫でられるの好きな」
水瀬の頬が緩んでいる。甘えん坊だからなのか、そうされるのが好きなようだ。
「空手に行きたいですね。皆に会いたいなぁ」
水瀬の弟は高校生で、空手部に入っているらしく、亮汰も通っているのもあって通うようになった。
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