手ぐすね引いて待つ

7/9
前へ
/55ページ
次へ
 そこは運動不足を解消したいとか、ストレス発散が目的で通っている大人も多く、練習後に飲みに行くのも楽しみの一つだった。 「まぁ、ピークは過ぎても残業しねぇとだからな」 「そうなんですよねぇ……」  がっくりと肩を落とす。 「ほら、あと二日で休みだろ」  会社は週休二日制なのだが、繁忙期になると土曜も出勤となる。  今週も土曜日は出勤となっているが、多分、半日で大丈夫だろう。 「うう、そうですね」  仕事を始めようと椅子に座ると、机の上に置いておいたスマートフォンが震える。  画面を見ると桜からで、メールを開くと、隆也を亮汰の所に住まわせてほしいということだった。  二年前からから桜の家族が長谷家に同居をはじめ、家を建て替えた。確か、隆也の部屋はないようなことを言っていた。  帰ってこないのが悪いと、その時はそう話していたが、帰国したのに住む所がないとなったら可哀そうだ。  借りているマンションは2LDKで、洋室を寝室として使っているだけでほぼリビングにいるし、和室は客が来た時ぐらしか使っていない。 「おい、水瀬。日曜日、買い物に付き合え」 「買い物ですか、それなら、土曜日に泊まりにきてくれます?」  部屋で一人で過ごすのはあまり好きではないらしく、休みの前の日になるとよく誘われる。  それなら恋人を作ればいいのだろうが、それが上手くいかないのだとぼやいていた。 「わかった」 「やった」  喜んで抱きついてくる水瀬に、鬱陶しいとその身を引き離す。 「あん、冷たい。唯香ちゃんはよいのに、俺は駄目なんですか」 「唯香は可愛いからな」 「そりゃ、そうでしょうけどぉ。後輩にもう少し優しくしてもいいと思います」  と抱きついて肩に頭をぐりぐりとくっつける。 「犬ですね」  遠崎がずばっというと、また周りが笑いに包まれた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

116人が本棚に入れています
本棚に追加