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私は決心した。
お見合いを受けよう。
この不毛な恋を終わりにしなければ。
その人の第一印象はニコニコ笑っている人。
そして絶妙な間隔を空けて話し掛けてくれる事に気付いた。
三十路だと言ったその人の雰囲気は悪くなかった。
むしろ、良かったと言ってもいいほど。
お見合いの最後に、
「今度は二人で食事でもどうですか?」
その人ははにかんだ顔をして訊いてくる。
私はすぐに頷いた。
初めは緊張していたが、次第に一緒にいる事が心地良いと感じるようになっていた。
そして、その人に愛されている事を感じた。
それから婚約するのは早かった。
式を迎えるまでには、私はその人を愛せるようになっていた。
会社には何も言ってなかった。
誰にも言ってなかった。
だから私が寿退社させて下さいと伝えたら、本当にみんながみんな驚いていた。
あの人もとても驚いていた。
「なんで俺にはもっと早くに教えてくれなかったの」
あの人は怒ったような悲しいような何とも形容しがたい表情をしていたが、その顔を見た私はもうあの人に何も言う事が出来なかった。
言葉が見つからなかった。
私は、この人ではない人と添い遂げるのだと、やっと実感して、涙が出そうだった。
生涯でこんなにも熱く、こんなにも苦しい恋をするのは、ただ一人この人だけだと理解した。
最後に、最後にと思って書いた手紙も、涙が出そうになったお蔭で、結局渡す事が出来なかった。
その手紙には一言、
"あなたの事を好きになれて幸せでした"
としたためてある。
名前は敢えて書かなかった。
筆跡で私だと分かってくれるから。
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