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「シャノン様、私疲れてしまいました。お部屋で休みませんか?」
「あぁ、そうしよう。大事な君に何かあっては困るからね」
ふたりは仲睦まじく退室していく。オリヴィアは呼び止めることすらできず、黙ってふたりを見送ることしかできない。
「では皆様、ごきげんよう」
ジャレッドは陽気に言うと、箱型の舞台を仕舞った。同時に人形達は事切れる。
気がつくとオリヴィアは、歯車が忙しなく回る時計塔の中にいた。
「どうしてこんなことになってしまったの……?」
声が出て動けはするが、涙は流せない。冷たい足音が、オリヴィアに近づく。顔を上げると、ゼファーが彼女を見下ろしている。
「ゼファー……」
「だから言ったろう、後悔するぞ、と」
ゼファーはそれだけ言うと、近くの扉を開けて姿を消した。
それからオリヴィアは、数日にわたる晩餐会でジャレッドの思い通りに物語を演じ続けた。それはどれも最後に幸せになる恋物語で、お相手は決まってゼファーだった。
(私がシャノン様を好きになれたら……。ううん、馬鹿な夢を見なければ、こんな恋ができたのかもしれないわ……)
オリヴィアは自分の愚かさを呪い、うなだれる。
晩餐会が終わった翌日、ジャレッドはオリヴィアの髪をとかしながら、鼻歌を歌う。
「無知で哀れなお姫様。貴女が望んだとおり、これから私と旅ができますよ。嬉しいでしょう?」
「お願いよ、元に戻して」
「何をおっしゃいますか。これは貴女が望んだことでしょう?」
ジャレッドは懇願するオリヴィアを鼻で笑い、時計塔に戻した。
時計塔に戻ると、ジェスターと3人組がオリヴィアを囲む。
「どうしてそんなに悲しそうな顔をしているんだい? 望みは叶ったろう? 君はジャレッドと一緒にいられるし、僕達も君といられる。素敵なことじゃないか」
「素敵素敵!」
「みんな一緒!」
「楽しい旅!」
4人の言葉を否定するように、オリヴィアは首を横に振る。
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