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一通り挨拶を終えたところで、前触れもなしに薄暗くなり、大広間はざわつき始めた。
「何事……?」
「大丈夫だよ、オリヴィア」
シャノンは不安がるオリヴィアを、優しく抱き寄せた。
壇上が照らされ、みんなの注目が集まる先には横長方形の大きな箱と、奇抜な出で立ちの男がそこに在る。男は真っ赤なベストにベージュ色のジャケットを着ている。整った顔の左半分は涙を流した白い仮面で隠れ、右目の下には真っ赤なハートのペイントが施されている。
「皆様お初にお目にかかります。私は宮廷道化師のジャレッドと申します。本日はキャンベル伯爵とオリヴィア姫のご婚約を祝福させていただきます」
ジャレッドはにっこり笑って恭しく一礼すると、箱の裏から赤い薔薇と白い薔薇を1輪ずつ出した。彼が息を吹きかけると赤と白の花びらが舞い上がり、大広間中に降り注ぐ。
「まぁ、素敵……!」
オリヴィアが手を差し出すと、赤い花びらがひらりと着地した。
それからジャレッドはジャグリングや玉乗りをしながらのダーツ、枯れた花を元に戻す手品などを披露して晩餐会を盛り上げていく。
「名残惜しいですが、次の芸が最後となります。私が十八番とします人形劇をご覧に入れましょう」
箱の側面の上半分が開き、可愛らしいマリオネット達が現れる。舞台は湖畔の夜だ。ジャレッドは箱の裏から大きな本を取り出して広げた。
「静かな湖畔では、若き恋人達が逢瀬をしております。『ようやくふたりきりになれたね』『そうね、オリバー……。ねぇ、こうしてコソコソ会うなんてやっぱりよくないわ。堂々と会えるよう、皆に認めてもらいましょう』」
ジャレッドが声音を変えながら本を読むと、マリオネット達は彼が読み上げるセリフに合わせて動く。
(不思議……。どういう仕組みなのかしら?)
オリヴィアはジャレッドの言葉に合わせて動くマリオネット達を、じぃーっと見つめる。
初めはマリオネットの仕組みばかりを気にしていたオリヴィアだが、若き恋人達が周囲を巻き込んで騒動を起こしながら、それぞれの両親に認められようと奮闘するコミカルで疾走感のある恋物語に夢中になった。
物語はハッピーエンドで終わり、拍手喝采がジャレッドに向けられる。
「お気に召したようで何よりです。それではまた、ごきげんよう」
大広間は再び暗くなり、もう一度明かりがつくとジャレッドも箱もなくなっていた。
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