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楽しい旅
軽快な音楽に、オリヴィアは目を覚ました。目の前は真っ暗で何も見えず、身体どころか首すら動かすことができない。助けを呼ぼうと声を出そうとするが、声すら思うように出せない。
(どうなっているの……?)
自由のきかない身体や暗闇に泣きたいほど不安だが、泣くことすら出来そうにない。
「本日も私のような道化をお呼びいただき、ありがとうございます。本日はオリヴィア姫様のためにも、とっておきの人形と物語を用意させていただきました!」
高らかなジャレッドの声が聞こえたかと思えば、視界が急に明るくなる。
(眩しい!)
そう思っても目を閉じることすら叶わない。
「見てください、シャノン様! あのお人形さん、私にそっくりですわ!」
聞こえてきた弾む声は、他でもないオリヴィアの声だ。少し離れたところで、オリヴィアと瓜二つの少女が、シャノンの腕に抱きついて無邪気に笑っている。
(私!? どういうことなの?)
「むかしむかし、若くて美しいお姫様がいらっしゃいました。誰もがお姫様の美しさに魅了され、貴族の殿方達は、お姫様に求婚を申し込みます。女性達も美しさの秘訣を知りたくて、お姫様をお茶会に誘います。ですが、お姫様はいつもひとりぼっちでした」
ジャレッドの言葉に合わせて、オリヴィアの身体は勝手に動く。
オリヴィアが状況を理解出来ないまま、舞台は進められていく。オリヴィアが演じるお姫様は、自分を理解してくれる人がいなくて、いつも寂しい思いをしていた。湖でそのことを嘆いていると、ゼファーが演じる、似たような悩みを抱える青年に出会う。ふたりは意気投合し、決まった時間に湖で落ち合い、語らう仲になる。お姫様は青年との逢瀬をするようになってから、寂しさなど忘れていた。
だが幸せは長く続かず、お姫様は父親に勝手に結婚を決められてしまう。悲しみに暮れたお姫様は、青年に別れを告げ、婚約パーティーまで引きこもるように。
婚約パーティー当日、お姫様は初めて自分の婚約者に会うことに。その婚約者の貴族というのが、湖で逢瀬をしていた青年だったのだ。お姫様に笑顔が戻り、運命の赤い糸で結ばれたふたりは、末永く幸せに暮らした。
舞台が終わると、オリヴィアはジャレッドやほかの人形達と共に拍手喝采を浴びる。
「とっても素敵な物語だったわ!」
「あぁ、いいものを見せてもらったよ」
オリヴィアとそっくりの少女とシャノンは、ジャレッドに笑顔を向けながら言う。
(あなたは誰なの?)
オリヴィアが声なき声でもうひとりの自分に聞くと、ほんの一瞬、彼女は残忍で美しい笑顔をオリヴィアに向けた。自分も知らない自分の顔に身の毛がよだち、大声をあげて逃げたくなる。
オリヴィア似の彼女は無邪気な笑顔を作りなおすと、キラキラ輝く目を、ジャレッドにむけた。
「ねぇジャレッド、もっと近くでこのお人形さんを見てもいいかしら?」
「えぇ、もちろんですとも」
ジャレッドが快諾すると、彼女は無邪気な笑顔をオリヴィアに近づける。
「ありがとう、間抜けなお姫様。ミアが代わりに幸せになるね」
(ミアですって!?)
オリヴィア似の彼女……ミアはオリヴィアにしか聞こえない小声で言うと、シャノンの隣に戻り、彼の腕に抱きつく。
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