宮藤 篠亜

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宮藤 篠亜

世間は五月のゴールデンウィーク(GW)。 僕は校舎はずれにある藤園(別名:生徒に忘れられた場所 忘園(ぼうえん))にいる。 新緑が芽吹き明るい緑色が庭園を覆い、中央には満開に咲いた美しい薄紫の藤が植えられている。藤の下にはベンチがあり、座って空を見上げると薄紫のカーテンが広がりを見せとても美しいのだ。 もう一時間ぐらいここにいるだろうか。 去年の冬休み、宮藤 篠亜はトラックに轢かれそうだった子猫を庇い事故にあった。殆んど外傷はなかったが打ちどころが悪く即死。その際、僕(結城 要)が宮藤の中に転生した。その為前世の記憶持ち。 転生したのはいいが、目覚めたら3月。検査やリハビリ等で忙しく、4月の始業式に間に合わず、ゴールデンウィークの始めに退院となった。 前世も持病であまりいい人生とは言えなかったが、二度目も目覚めてからいい気はしない。まず、死んだ人の身体に入るのからしておかしいと思う。しかも宮藤の記憶まではっきりあるのだ。他人の記憶を勝手に覗いているようで悪い気がする。しかも、同い年の同じ学校だなんて、、。 また学生生活を送れるのは不思議な感じだ。 まだ校舎に行ってはいないが、きっといるはずだ、、、要の恋人が。しかも、宮藤にもいるのだ。クラス替えでクラスは違うらしいが、事故後から退院までほぼ毎日お見舞いに来てくれていた。小学生からの幼馴染みで、明るく優しい性格、バスケ部レギュラーと記憶もあるのだが、どうも僕からしたら恋人と言われても実感がない。 もう一度上を向き藤の花を見る。 元気かな、、、紫音は。 僕の恋人、、、いや、今は元恋人か、、。 転生しているから姿は見れても、もう話せないんだよな、、。 ふと指先で頬に触れると濡れていることに気づく。涙だと分かると次から次へととまらなくなる。 、、、今だけはいいよね? 今になって我慢していた感情が表出する。 もっと生きたかった。 もっとみんなと話したかった。 大切な人ともっと一緒にいたかった。 何で自分が?と何度も思ったことがある。 どうせなら何も知らない世界に転生したかった、、何もかも忘れて。 もう手には入らない欲を欲してしまう。 要に人生があったように宮藤にも人生があった。そして今、宮藤(身体)は僕が転生したことで生きている。 宮藤は生きているのだ。 僕は宮藤として生きなければならない。 【  神様は残酷だ  】 こんな黒い感情なんて知りたくなかった。
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