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とある路地裏の水路沿い
子供のニベルとアリン登場
アリン
何を書いているの、二ベル。
ニベル
内緒。
アリン
ほら、見せなさい。
ニベル
だめだめ。これは人にめせちゃ決してダメなものなんだ。人に見せたら、朝露のように簡単に消えちゃう。
アリン
私でも?
二ビル
アリンは……、いや、だめだだめ。でも、いつか見せるかもしれない。セズル地方でまた大きな地震が起きた時に。
アリン
地震は嫌い。だって聞いた? セズル地方の様子。地面が真っ二つになったて話よ。
二ビル
比喩だよ比喩。メタファーだよ。
アリン
知ってる。でも、メタファーだからといって、何でも使っていいとは思わない。この前の市長の演説、聞いた? ヘレザールは悪魔だとか、ヘレザールはどぶガエルだとか。その後なんてヘレザール人の「へ」の字も言わずに、全部馬鹿にして喩えてたのよ。
二ビル
分かった分かった。すまなかった。俺の負けだよ。――でも、あんまり大きな声でそのこと絶対に喋るなよ。
アリン
分かってるわ。そのことくらい。あなたよりも私、頭がいいもの。
二ビル
頭がいいが余分だ。だから怖いんだよ。アリン、お前の口は蚊か何かか。隙さえあれば、直ぐに言葉を出す。言葉の質量はもっと大きい。容易に出すもんじゃない。
アリン
言葉は軽いものよ。こんな誰か分からない人が作ったものが、重いはずないわ。もしそんなに重たかったら、あの市長が悠々とおべっかに、テキトウなこと言えるはずないもの。
二ビル
分かった。じゃあ、軽いものだとしよう。でもそうだとしたら、今目の前に流れているこの汚い水路に浮かんで、お前の言葉は衛兵の耳にでも入るだろうな。
オゼオ登場
アリン
しっ、誰か来た。
オゼオ
また喧嘩でもしてるのか。
二ビル
なんだ、オゼオか。
オゼオ
何だとはなんだよ。メーゼルームにでも会いたかったか?
二ビル
誰が、あんなインチキに会いたいものか。あれの言うことは、一〇〇個中一三〇個間違ってる。
オゼオ
それは賛成だ。魔法なんてものは存在しない。本当にあるんだったら、とっくにこの国は良くなってる。あれがいること自体、この国がおかしい証拠だ。――いつかあの手品のタネを暴いてやる。
アリン
じゃあ、いっそのことお城に火を点けます?そうすれば全てまるっと収まらない。
二ビル
ほら、また余計なことを言った。それ人前で言ったら極刑だぞ。
アリン
でも、そうでしょ。そうでもしないと良くならないわ。私見たの。この前、道端で腐ってる人がいたわ。
オゼオ
それはもうだめだな。
ニビル
(傍白)汚れた茶色い水。腐った臭いのする道端。でも、俺たちには分らない。ここがそんなに汚れた場所か? あいつらの館の方がよっぽど汚らしい。昼間からだらだら寝転がって、酒を飲んで、欲望に溺れた顔で笑ってやがる。――誰かがやらなければいけない。フェニックスよ、誰でもいい。あいつら以外なら誰でもいい。力を貸してください。
三人ともはける
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