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流浪の絵描き
二人の門番登場
門番1
ああ、最近来訪者が多すぎませんか。これじゃあ、身が持ちませんよ。
門番2
テキトウニやればいいんだよ。こんなものは。上の方のご意向がどうであれ、俺たちは用件を聞いて、荷物を確認して、それで通せばいいんだよ。王様や貴族の方々には、ちゃんとした衛兵が付いてらっしゃるんだから。俺たちは、仕事後の酒でも考えておけばいい。
門番1
まあ、そうですけど。――やっぱりこんなに多いと疲れますよ。それにこの頃、暑いじゃないですか。俺、このままトーストになっちゃいますよ。
門番2
大丈夫だ。お前がトーストになったら、裏の婆さんのところの水ジャムでも塗って、お化粧してやるから。――ん、また誰かいらしたぞ。
絵描き
すいません。この国に入れてもらいたいのですが。
門番2
ここらじゃ中々みない顔ですね。――用件はなんですか。
絵描き
特にこれといった用件があるわけではないんですけど、私は旅人でして、色々な国を回らしてもらってます。
門番1
純粋な旅人とは久しぶりですね。この頃、高貴なお方や、商人ばかりでしたからね。――一応、荷物のチェックだけさせていただきます。
絵描き
はい、どうぞ。
門番2
――これは何ですか?
絵描き
それは絵を描くための道具です。
門番2
ほう、絵をお描きになるんですか。
絵描き
はい。趣味程度のものですが。
門番1
これは失敗作か何かですか?
絵描き
いえ、それはちゃんとした作品です。
門番1
これが作品ですか? 私にはよく分かりませんね。なんだかテキトウに塗りたくったような感じですけど。
門番2
こらこら。すいませんね。私達はどうも絵には疎いもので。
絵描き
いえいえ、大丈夫です。現に、それはテキトウニ塗りたくったと言ってもいいものですから。
門番2
――こいつは、小刀ですか?
絵描き
はい、護身用の物です。
門番2
しかし、これはちゃんと切れるんですか?随分と鈍ようですが。
絵描き
ええ、豆腐ならいつでも切れますよ。
門番2
なるほど、なるほど。それは中々の切れ味で。これで何丁もの豆腐が血を流していたか。これだと、いつでも冷奴が食べれますな。
絵描き
そうですね。もういっそのことその道で生きてもいいんですが。
門番1
まあ、これといって怪しい物はありませんから、いいでしょう。
門番2
そうですね。では、ごゆっくり。
絵描き
ありがとうございます。
絵描きはける
門番1
ありゃ、いかれたやつですね。口振りは立派だけど、心が病んでますね。
門番2
まあ、絵を描くやつってのはだいたいそうだろう。――絵に限らず、芸術だけに携わってる輩は、往々にしていかれたやつさ。誰が好き好んで、あんな鈍ら持って、わざわざ旅に出るやつがあるか。まともなやつらは、酒と女があればそれで充分さ。
門番ふたりともはける
市長とガリール夫妻登場
エリゴ
どうだね最近の調子は?
市長
順調でございます。
エリゴ
私の提案した農業改革は、ちゃんと成功してるか?
市長
今のところ順調に進んでおります。
エリゴ
商業の方は?
市長
そちらも順調で、国外から様々な商人達が町を賑わせております。
エイゴ
そうだろそうだろ。そうでなきゃおかしい。この私の政策だ。この政策はあの東の大帝国へ私が行ったときに思いついたやつだからな。間違いなく、成功するだろう。
ユリザ
さすがでございますね。やはり貴方こそ、真の貴族でございます。ご自身のことだけではなく、お国のことまで考えられるとは。
エリゴ
ははは、当たり前のことをしたまでだ。私は貴族のまえに人だからな。可哀想な者には慈悲心を持って、接することは常識だ。
市長
さすがエリゴ様でございます。――しかし、ちょっとだけ問題がございまして……。
エリゴ
なんだ、言ってみ。
市長
元々いた中央地区のやつらが、最近ちょっと騒がしくてですね。
エリゴ
あんなやつらは武力で押さえつけておけばいい。自分達のことばかり考えて、国のことを何にも分っていない馬鹿どもだ。あんまりにも五月蠅いなら、ヘレザールの豚たち同様に、奴隷にでもしてしまえ。
ユリザ
それが一番ですね。
市長
そうでございますね。そのようにしておきます。(傍白)この坊ちゃんの政治ごっこはいつまで続くんだ? こいつのせいでこっちは大変な目にあっとるんだ。こいつの政策という子供遊びを補佐するのに、一体何人のやつら死んでいることやら。まあ、もう少しの我慢だ。いずれ私が出世すれば、こんなやつの相手をする必要はない。
三人ともはける
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