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神隠し
気付いたら、あたり一面真っ白な世界だった。
明らかに元の世界とは違うと感じた。
周りの景色はもちろん、雰囲気が全然違った。
(ここはどこ…?)
周りを見回すけど、どこまでも真っ白な世界しか見えない。
急にこの世界には自分一人しかいないような恐怖に襲われた。
「…兄ちゃぁ~ん」
恐怖から声が出ない。
普通に喋る程度の声はあっという間に消え去り、静寂が戻ってきた。
泣きたくなった。
もう元の世界には戻れない。
もしかしたら自分はもう死んでしまったのかもしれない。
だから誰もいないのかもしれない。
「兄ちゃぁ~んっ!」
わんわん泣きながら兄を呼んだ。
しかし、応答はなかった。
その場にいるのが怖くなって、泣きじゃくりながらただひたすらに真っ直ぐ進んだ。
あたり一面真っ白だから真っ直ぐ歩いているつもりなだけで、実際は歩けてないと思う。
それでも誰かに会えるかもしれない希望に縋ってただ歩みを止めることはしなかった。
泣き喚きながら歩き続けるのは相当な体力が必要で、子供の体力ではあっという間に底が尽きた。
「兄ちゃぁ~ん…」
やはり兄からの応答はなかった。
(もう歩けない。足、痛い)
いつもなら意地悪を言いながらも兄がおんぶしてくれるが、今日はその場に蹲ることしかできない。
動くことを止め、しゃがみ込み、声を出さずに泣き続けた。
涙は枯れることはなかった。
こんなに自分の体に水分があるのかと思わされるほどに泣いた。
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