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「少年、どうしたのです?」
声のする方へ見上げると、闇色の漆黒の長髪で、白磁の肌理細やかな肌、真っ赤な唇をした綺麗なお姉さんがそこにいた。
「少年は迷子ですか?」
声を出そうとしても喉が張り付いてうまく声が出せない。
首を横に振った。
「誰かと一緒ですか?」
再度首を横に振った。
「何をしていたのですか?」
「……かくれんぼ」
やっとの思いで声を出したものの、掠れてて聞き取りづらい声だ。
「そうでしたか。誰かの差し金ですね」
お姉さんの言っている意味がよく分からなかった。
「どこで遊んでいたのですか?」
「公園。でも、俺が隠れたのは神社の本堂の床下」
「なるほど」
お姉さんは合点がいったのか、一人納得して頷いていた。
「いいですか?少しショックなことかもしれませんが、事実を話します」
やけに真剣なお姉さんに頷くことしかできなかった。
「ここは神域。神の住む世界に少年はいます。元の世界とは別の世界です」
神の領域。
そんな場所に来た覚えはない。
ただ本堂の床下で隠れていただけなのに。
「少年は本堂の床下に隠れたと言いましたね。そこは神のお膝元です。少年がかわいらしいから神も手元に置いておきたくなったのでしょう」
神の手元に置かれた。
それはもう元の世界には戻れないということなのだろうか。
お姉さんの言葉を最後まで聞かずに勝手に自己完結させてショックを受けてしまった。
「そうショックを受ける必要はありません。私が元の世界まで連れていってあげます」
一筋の光が見えたように感じた。
もう戻れないと思っていた元の世界にお姉さんが連れていってくれる。
「ただし、一つ約束があります」
さっきよりももっと真剣にお姉さんが詰め寄ってくる。
人差し指を自分の鼻の前で立て、念を押してくる。
「絶対に元の世界の名前を言ってはいけません。言ってしまったら、もう元の世界には戻ることはできません。私の力でも無理です。ずっとこの世界で生きて行かなければなりません」
自分の名前を言ってはいけない。
それがお姉さんが俺を元の世界に戻してくれる絶対条件。
それを守れなかったら、この世界で生きていかなければならない。
そんなのはごめんだった。
「分かった」
「よろしい。では行きますよ」
お姉さんに手を繋がれ、ゆっくり歩いていく。
どこに向かえばいいのか、お姉さんは知っているようだった。
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