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「お姉さんはここの神様なの?」
「いいえ」
「じゃぁ、俺と同じ人間?」
「人間でした」
人間『です』ではなくて『でした』?
そこに幼いながらも違和感を覚えた。
「どういうこと?」
「私もかつて少年と同じように神隠しに遭いました」
「神隠し…」
「そうです。私も元の世界に戻ろうとあたりを歩き回りましたが、出口は見つかりませんでした。そんな時、一人の神に出会ったのです」
「俺がお姉さんに出会ったみたいに?」
「そうです。そこで私は騙されたのです。名前を教えてくれれば元の世界に戻してやるという神の言葉を信じて教えてしまったのです。神に真名を教えるということは、神に自分の命を握られるということ。私はその神の眷属となり、この世界から出ることができなくなりました」
「けんぞく?」
「手下とか家来と言えば分かりやすいでしょうか」
「そうなんだ…」
「私をこの世界に連れ込んだのも、その神だったと随分後になって知ることとなりました。全ては神の掌の上で踊らされていたのです」
お姉さんは自虐的に薄ら笑っていた。
「だから少年が迷い込んだ時、私が助けなければならないと思ったのです。まだ少年は人間です。私はもう戻れなくなった世界に戻ることができます。私が絶対に戻します」
俺を元の世界に戻すことがお姉さんの使命のような口調だった。
本当ならお姉さんも戻りたかったはずの世界。
だけど、神に騙されたことで戻れなくなった世界。
今も未練があるはずなのに、俺を戻すために尽力を尽くしてくれている。
感謝しかなかった。
「ありがとう、お姉さん」
「その言葉は出口までとっておいてください。まだ出られるとは限らないですから」
「どういうこと?」
「出口までの間に神に見つかってしまっては厄介です。言葉たくみに少年の真名を言わせようとしてきます。だから、この世界では私以外の者と言葉を交わしてはいけません。いいですか?」
「うん。約束する」
「いい子です」
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