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数か月後、祖母は眠るように死んだ。
死に顔は本当に幸せそうだった。
告別式も終わって、遺品整理をしていると、昔の写真が出てきた。
セピア色の写真。
そこには若かりし頃の祖母と美鈴さんが写っていた。
裏を見ると『美鈴 十六歳、紗枝 十。玄関にて』と書かれていた。
写真から二人が相当仲がよかったのが伺える。
神域にいるからか、あの頃会った美鈴さんは写真のままの姿だった。
死んだらあの世で会えるのか定かではない。
聞こうにも、聞ける相手もいない。
「ばぁちゃん、美鈴さんと会えたか?」
ぽつり、独り言ちた時、ぶわっと風が吹いた。
思わず写真から手を離してしまった。
風に乗った写真は縁側に落ちていた。
拾い上げ、空を見上げると雲一つない満月の夜だった。
(助けてもらった時の夜もこんな満月の日だったな)
月明かりに照らされた庭に、美鈴さんが現れた。
「えっ…」
美鈴さんがしぃー、と人差し指を唇に当てて声を出すなとジェスチャーをする。
慌てて口を噤むと、俺から見て左を向き、手招きをして誰かを呼んでいた。
どうしても出て来ない相手を無理矢理連れてきたと思ったら、祖母だった。
しかし、姿は写真の時のような若い頃の様相をしている。
どうやらあの世で会えたらしい。
二人で手を振ってくる。
それはまるで別れを意味しているかのようだった。
俺も手を振り返す。
『あ・り・が・と・う』
そう言って二人は月明かりの下へ消えていった。
何に対してのお礼なのか、俺には分からない。
ただ二人が幸せそうなことだけは明白だった。
月はパワーを秘めていると聞く。
願いを叶えるとも。
きっとこんな綺麗な満月だから、二人の再会したい思いが叶ったのかもしれない。
そっと月を見上げ、俺も願いをした。
(どうか二人が生まれ変わっても再び姉妹で幸せに暮らせますように)
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