午前四時半の逢瀬

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「知ってる?前世で恋人同士だった人はね、来世でも必ず再会できるのよ。前世で果たせなかった約束とかがあればあるほど、その確率は上がるわ」  俺の手を握りしめたまま、彼女は顔を上げて唇を綻ばせる。薄明が滲んだ月明かりを浴びた彼女は、ひどく幻想的でこの世の何よりも美しかった。 「だから、また逢いましょう。姿形が変わっても、性別や生まれた環境が違っても、私たちはまた巡り合えるだろうから」 「……あぁ。サヤを絶対に見つけてみせる。今度は、何も間違えないから……」  誰かが奏でる淡く切ないメロディが消えかかる。昇り始めた朝日がこの空間ごと攫って、サヤの存在を世界に溶かしていく。 「約束よ。この月明かりの下で、再び逢えますように」  そう言って、最後に彼女は誓いの口づけを落としていった。  次に目を開けた時には、神秘的な空間も彼女もどこにもなかった。御伽噺のような噂が連れてきた夢のような小さな奇跡は、瞬く間に終焉を迎える。  何度目を瞬かせても、月光が彩る不思議な世界はもう存在しない。  ただ、そこには泣くほど美しい朝焼けだけが広がっていた。
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