午前四時半の逢瀬

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「……あの時は、まだ幼かった」  差し込む月明かりをぼんやりと見つめながら、俺はぽつりと話し始めた。 「今となってはただの言い訳のようにしか聞こえないかもしれない。でも、当時の俺には恋愛というものがどういうものか分からなかった。彼女なんて、いるだけ面倒だと思っていた。……人のことを、ろくに知ろうともしなかった」  幼き日の自分に向けて、棘ある声をぶつけていく。瞼の裏に映る死んだ目をした自分と目が合ったような気がした。 「……だから、心無い言葉でサヤの気持ちを踏みにじってしまった」  目の奥が熱を帯びた。別の何かが溢れかえりそうな喉を必死に震わせて、心の奥底に溜め込んだ想いを吐き出していく。  サヤは、黙って俺の話を聞いていた。  そんな彼女に、いつの日か言ってしまった心無い言葉。  その時の言葉は、何よりも深く耳奥に刻み込まれている。  ――興味ないんだ、お前のこと。  彼女は、いつもの飄々とした様子で、それでいてどこか真剣に気持ちを伝えてくれたのに。進路や家庭の悩みで苛立ち、他人への不信感を抱いていた当時の俺は、彼女の気持ちを何も考えずに嘘だと思ってしまったのだ。  冷静じゃなかった。  恋愛に現を抜かすほど、余裕がなかった。  本当にそうだったのだが、今となればそれはただの言い訳にすぎない。  あの時、もう少し彼女のことを知ろうとしていれば。今頃は、隣で共に過ごしていたかもしれないのに。 「……今更遅いかもしれない。これを言って、サヤを怒らせて、この場で殺されても構わない。それでも、俺はお前に言わなくちゃいけないと思う」  心のどこかで感じていた、甘酸っぱい果実のような小さな気持ち。当時はそれに気づかないフリをして、どうでもいいと吐き捨てた。  けれど、今は違う。今ならば、彼女の奏でる旋律に惹かれた理由も、誰かとつるむのが嫌いだった俺が彼女といたのも、仄かに胸が温まる気持ちも、全部理解できる。 「……俺、サヤのことが好きだった」
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