ホワイトシャドウ(旧ピンク)松本白亜(まつもと はくあ)編

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 白亜は『黒曜書店』にやってきた。黒彦に前田ミサキのことを相談するためだ。白亜も含め、仲間たちはみんな黒彦を頼りにしていることが多い。博識で見識も深く探究者である黒彦は所謂、知恵袋だった。相談して直接解決方法が出なかったとしても、何かしら方法を示唆してくれるのだった。  店内に入るとちょうど黒彦が店番をしているところだった。 「いらっしゃい。ん? 白亜か。どうした」 「あのさあ。トラウマの克服ってどうしたらいいと思う?」 「克服か……」 黒彦は白亜が前田ミサキの事を言っているとわかったが触れることはしない。もちろん白亜も黒彦の怪人によるものだとは言わない。 「そっち方面ならあいつのほうが詳しいな。今掃除してるから、ちょっと呼んでくる」 「そうなの? 悪いね」 待つ間しばらく店内を見ていると、コーナーの一角が『心を元気にしましょう!』と特集が組まれていた。メンタルトレーニングや心理学、料理など精神にいい影響を及ぼす本が積まれている。桃香による丁寧な字で、それぞれの本の内容とおすすめ度が書かれてある。 「いいよね、桃は。真面目で前向きで明るくて。根暗な黒彦にぴったりだよな」 彼女の性格が表れているような字を眺めていると、桃香が奥からやってきた。 「白亜さん、こんにちは。私でお役に立てればいいですけど」 「ん。トラウマ克服ってなんかいい方法ある? そんな簡単なことじゃないのはわかってるけどね」 桃香も白亜が前田ミサキのことを言っているのが分かっていた。ミサキは以前、ここで本を買っていった。 その本は『決定版! 一度病んじゃった精神科医が教える心が強くなる10の方法とあとはこれを食べるだけ! 最強の心で異世界へ』だった。桃香も勿論ミサキが買った本の事は、個人情報なので言わない。 「何冊か読んだのと、私の経験なんですけど――」 「教えて」 「同じ状況に、年月を置いて立ち向かえて克服できるのが一番かなっては思うんですけど、ちょっと辛いですよね。でも仲間がいると立ち向かえると思うんです」 「確かに、一人だと不安でも仲間がいると違うよね」 白亜も桃香もシャドウファイブのメンバーとして、共に敵に立ち向かったことを熱く思い出している。しかし敵のボスが黒彦だと思うと少し冷めた。 「後は自分もやっぱり強くなるための努力が必要ですよね。たとえ気持ちで負けてても、身体を鍛えたりすると少し自信が出てくるというか」 「うん。桃は緑丸のじいちゃんとこで太極拳始めて強くなっていったよね」 「ええ。仲間がいて、鍛えると強くなれると思いました。誰かと比べるってことじゃないけど」 おっとりしている桃香だが根が真面目なのだろう。いいと思うことはやってきたようだ。最初はお飾りだったピンクシャドウだったが、後半は彼女以外にピンクシャドウは考えられないとシャドウファイブのメンバーは考えていた。 「同じ状況と仲間……」 白亜はミサキを怪人に襲わせ誰かが助けても、トラウマは解消しないのだと考えた。実際にスピーカー怪人に襲われたミサキのカウンセリングを、白亜は行ったが傷は残っていた。 ムッキムキ怪人に襲われた青年はあの後大丈夫だったのだろうか。緑丸に熱い視線を送りながら立ち去ったが。 とにかく本人が立ち向かい、乗り越えるしかないのだ。 「私も白亜さんたちのおかげで色々乗り越えられましたから」 「ふふっ。そう言われると光栄だけど桃は頑張り屋さんだからね」 「そうですか?」 甘い雰囲気の二人の後ろで「えへん! えへん!」と黒彦が咳払いしている。白亜は笑いながら「ありがと。じゃ帰るよ」と書店を後にする。後姿を見送りながら桃香は呟く。 「上手くいくといいですね」 「大丈夫だろう。白亜はチャラチャラしているように見えて最後までやり抜くやつだからな」 「へー。やっぱり素敵ですね!」 「ちっ……」 自分が褒めても桃香が褒めると気に入らない黒彦だった。そんな黒彦の腕をそっととり桃香は身体を寄せる。黙って寄り添っていると黒彦の機嫌が直っていくようだ。独占欲の強さは早くに両親を亡くしたせいかもしれない。 「ずっと一緒にいましょうね」 「ん、うん」 店の扉が開き、客がくる気配を感じて二人は身体を離す。 「いらっしゃいませ」 見えないレジの下で二人はしばらく手をつないでいた。
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