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綺麗なオルゴールの音が優しく流れる『レモントイズ』にまるで童話の王子様のように黄雅は、子連れの母親に微笑んでいる。
「こちらは天然木でとても当たりが優しいんですよ」
「は、え、ええ。とっても素敵ですねっ。これにします!」
若い母親は頬を染めおもちゃを受け取っている。
「ありがとうございました」
「ま、また~」
店を出た母親に3歳くらいの子供が「ままー、おもちゃー」と手を引っ張った。
「あ、はっ! えっと、何買ったっけ……」
「木のブーブ」
「そう、そうそうだったわね。はい、どうぞ。大事にしようねー」
「はーい」
夢から覚めたように母親は現実に戻り、子供と手をつなぎ仲良く歩いて帰った。微笑ましく眺めながら白亜は『レモントイズ』にはいる。
「おっす。黄雅。ここは相変わらず社交界のようなおもちゃ屋だなあー」
「ん? はははっ、いらっしゃい。どうしたの?」
「ちょっと頼みたいことがあるんだよ」
白亜はこれまでの事を説明し協力を求める。
「うん。いいよ。確かに黒彦には頼まないほうがいいな」
「だろ? で、さあ。怪人のこと考えてないんだけどなんかいいアイデアない?」
「そうだねえ。もったいない怪人なんてどうだろうか?」
「もったいない怪人? お化けじゃなくて?」
「うん、大事にされないおもちゃたちの怨念が怪人になったっていう感じ? 脇に壊れかけのラジオを抱えさせてさ」
「まあ、あんまり狂暴そうじゃなくていいかもね。弱点はなに?」
「やっぱり気持ちじゃない? 大事にするっていう」
「なんか最後、戦わないで『うたう』とかが攻撃になった昔のゲームみたいだなあ」
「ダメ?」
「いや、いいよ。それでいこう。俺と理沙ちゃんがガチ戦闘だしさー」
「理沙さんに手加減してねって言っといてよ」
「ああ、そうだな。本気でこられるとマジやばそうだしな」
「はははっ」
笑顔で話している白亜と黄雅を見ると、誰でも舞踏会に来たような気分になるだろう。しかしここは残念ながら商店街だ。
「じゃ、たぶん来月予定してるからよろしくー」
「オッケー。久しぶりに腕を振るっておくよ」
星が振りまくような笑顔で黄雅は手を振った。
「黄雅ってほんといい奴だよな。でも大人女子にしたら遠い存在すぎるのかもなあー」
王子様のような彼に早くプリンセスが現れるといいなと、自分の事よりも黄雅の幸せを白亜は願っている。
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