40人が本棚に入れています
本棚に追加
珍しく慌てた様子で黒彦が『アンティークショップ・紺碧』にやってきた。ちょうど青音は展示している茶器を磨いているところだった。
「どうしたの?」
「青音、これなんだが」
「どれ……」
紙袋を広げて黒彦は中身を見せる。青音が覗き込むと、真っ二つに割れた白い湯のみが入っていた。
「これ、お前の店の物だろう? さっき割ってしまったんだ」
「ああ、確かに。桃香にボーナスとして渡したものだ」
「直せないか? あいつの愛用品のようなんだ」
手のひらに取り出して、青音は湯呑を懐かしそうに眺めた。
「いいよ。金継ぎしておくよ」
「よかった。いつ頃できる?」
「そうだなあ。これくらいだと2週間くらいだろうか」
「むっ! そんなに時間がかかるものなのか……」
「うん。繋ぐのは難しくないんだけどね。接着剤の漆を乾かすのに時間がかかるんだ」
「そうか……。でもしょうがない。時間がかかっても直るならその方がいいな」
「うん。そう思うよ」
「そうなるとしばらくは、湯呑なしだな」
「湯呑もないの?」
ふふふっと静かに笑って青音は尋ねる。
「あいつは湯呑はそれを使い始めてからそればっかりだし。俺はなんでもマグカップでいいからな」
「黒彦はその辺頓着ないからね。マグカップも適当な景品だろう?」
「あ、ああ、そうだ」
黒彦の使用しているマグカップが、ピンク色で熊が描かれていることを青音には知られたくないと思った。
「それならさ、そのペアのカップどう?」
「これか。湯呑の雰囲気とちょっと似てるな」
柔らかそうな白いマグカップを手に取ると温かい感じがする。
「粉引きだけど民芸調だし新しいものだから安くしておくよ」
「そうか。じゃ買って帰るか」
「まいど。今包むよ」
「簡単でいい」
二つのカップを青音は優しく紙の梱包材で包む。そしてふっと手を止めて「いいの? プレゼントぽくしなくて」と尋ねた。
「プレゼント、か。うーん、誕生日でもないし、何もイベントもないし。というかこれはお詫びみたいなものだからなあ」
「そうか。ラッピングしたかったらお母さんに頼んであげようと思ったんだけど」
「いいよ。簡易包装で」
何となく照れくさそうな黒彦を面白そうに見ながら、青音はくるくると梱包していった。紙袋へ入れようとしたところでガラガラと引き戸が開いた。
最初のコメントを投稿しよう!