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二人で目をやるとそこにはベージュのスーツを着ている佐々木優奈が立っていた。
「ごめんください」
店の中を特にキョロキョロすることもなく優奈は静かに待つ。
「はーい。ちょっと待ってて」
青音が声を掛けると「わかりました」とそこで初めて足元にある壺や、天井のオイルランプを眺めはじめた。
「あの娘は婚活の?」
「うん。一応連絡先は交換して、いつでもどうぞって言っておいた」
「そうか。うまく行くといいな」
「だね」
そう言いながら壊れた湯呑を、まるで肌をなぞる様に触るしぐさに黒彦は少し焦る。
(青音が一番あいつに熱心だった気がする……)
青音は物静かな雰囲気だが、意外と積極的で油断がならないのだ。桃香がピンクシャドウとして活躍していた時、シャドウファイブたちとは均等な付き合い方をしていたのだろう。もしも、少しでも青音に対して他のメンバーより強い好意を持っていれば、今頃桃香の隣には青音が並んでいるはずだ。
(さすがにもう手出しはないだろうが……)
安心と心配を同時に感じつつ、婚活相手とうまくいくように願った。ペアのカップを受け取り「じゃあな」と手を振り、優奈に軽く会釈をして店を出た。
ふっと振り返ると、すぐに青音は優奈と親し気に話をしている。
(まあまあいい感じだな)
優奈は婚活パーティの時にもそう思ったが、更に化粧が薄めになっていてあっさりとした顔立ちだ。海外に居ながらもアジア女性とばかリ付き合ってきた東洋好みの青音にはちょうど良さそうだ。
しかし会えば佐々木優奈だとわかるのに、少し離れると印象がぼんやりする。あれだけ印象を残さない人物は珍しいという感想を残して黒彦は桃香の待つ『黒曜書店』へと急いだ。
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