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応接室でお茶でもと促すと、優奈は手を振り「ちょっと仕事の合間に時間が出来たので」と断った。
「ああ、忙しいんだよね」
「ええ、でも5日後にお休み出来るので、あの、これを」
プレーンなベージュのバッグから紙を一枚取り出す。エジプト展のポスターだ。
「へえ。いいね。こういうの好きだよ」
「ほんとですか? 良かった。一緒にどうかなって」
「うん。楽しみだ」
約束が交わせたので優奈は安心してほっと一息つく。
「このお店素敵ですね。色々なものがあって。あ、あんなところに墨壺なんかある」
「へえ。墨壺なんか知ってるの?」
「ええ。一応ですけど。線をひくんですよね、確か」
優奈が日常ではまず目にすることがない、建築現場で使われる工具を知っていることに、青音は驚いた。
「墨壺は歴史が古くてね。古代エジプトからあったとも言われてるんだ。もちろんこれは近代の物だけど」
「そうなんですね。でも装飾が素敵」
なかなか目端が利く女性だと思うと青音は関心が沸いてくる。もう少し話したいと思ったが「あ、もう行かなきゃ」と優奈はつぶやいた。
「すみません。慌ただしくて」
「ううん。気にしないで」
「じゃ当日の10時頃またここに来ますね」
「僕が迎えに行くのでもいいんだけど」
「いいんですいいんです。じゃ、失礼します」
ペコリと頭を下げて優奈は立ち去った。
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