ブルーシャドウ 山本青音(やまもと せいね)編

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――母親と食事を済ませると、ちょうど書店の閉店時間で店番をしていた父親が帰ってきた。父親は「ただいま」と席に着き母親は「おかえりなさい」と三人分のお茶を淹れる。そうやって食後のお茶はいつも親子三人で飲んでいた。  いつもより黒彦は早めにベッドに入った。子供の頃を思い出したせいか人恋しい気持ちになり、横たわっている桃香の背中を抱きしめる。桃香は逞しいからだで包み込まれ安堵し、また興奮し熱くなる。 いつもより身体を撫でる指先がより優しくマッサージのようで前戯とは違う雰囲気だ。桃香は子供の頃の話をしたため黒彦が甘えたくなっているのだと気づく。早くに亡くした両親の事でもう傷ついてはいないだろうが、仲間内では長兄のような黒彦がデリケートな甘えん坊な少年になる瞬間だ。滅多にないがこんな黒彦が桃香には愛しくてたまらない。ゆっくり向きを変え黒彦と向き合う。  抱かれていた身体を桃香は抱き返す。黒彦は桃香の腕に抱かれ、胸の中で安らぐ。やがてスースーと静かな寝息が聞こえ始めると桃香はそっと腕を外す。 「ちょっと痺れちゃった」 腕枕で朝までとは実際には難しかった。しばらく黒彦の安堵した寝顔を眺める。今はもう、うなされたり苦しそうな寝顔を見ることはない。 「黒彦さん、大好きですよ」 そう呟くと自分も愛を囁かれたような気分になり、桃香も幸せな眠りについた。
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