40人が本棚に入れています
本棚に追加
デートの日がやってきた。青音が支度をしていると、母親の桂子がそわそわと周りをうろついた。
「ちゃんとエスコートするのよ? 待ち合わせなの?」
「いや、彼女がここへ迎えに来てくれるよ」
「え? 女性が迎えに来るの?」
「僕が迎えに行くと言ったんだけど、美術館に行くのに通りがかりだとかなんとかで、彼女が来てくれるって」
「まあ、そうなの? 今どきはそういうものなのかしら。お車でもバイクででも迎えに行けばいいのに」
「ああ、彼女はバスで行きましょうって」
「へえ。まあうまく行きそうなら紹介してね。今、紹介とかしちゃってプレッシャーになったりしたらいけないし」
「お母さんは心配性だな。ダメな時はダメだし、いい時はうまく行くよ」
「そうねえ……」
ジャケットを着て後姿を確認していると、店の方から「ごめんください」と優奈の声が聞こえた。
「きたわよ! 急いで!」
「ん、じゃ、行ってきます」
「いってらっしゃーい」
桂子の熱い声援を背に青音は店に出た。
「おはよう、優奈さん」
「おはようございます」
穏やかに優奈は笑んで頭を下げる。カシュクールの白いブラウスに紺のガウチョパンツを合わせている彼女は、洋装なのに和装の雰囲気があり青音は好感を持つ。
「素敵な雰囲気ですね」
もちろん紳士である青音は褒めることを厭わない。
「ありがとうございます。青音さんは和服も洋服もよく似あいますね!」
「ありがとう」
社交辞令のあと、美術館に向けて出発した。
最初のコメントを投稿しよう!