ブルーシャドウ 山本青音(やまもと せいね)編

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 平日であるが『古代エジプト展』は人気のようでなかなかの人出だった。 黄金のマスクや棺、装飾品などを二人で話し合いながら見る。煌めくものから色彩の禿げた年月を感じさせるものなどさまざまあり、青音はとても愉しんだ。 「ピラミッドってうっかりするとお墓ってこと忘れちゃいますよね」 「うん。規模が大きいし、あれだけ正確な角錐じゃ何か別の意味のあるモニュメントに思えるよ」 「やっぱりそう思います? ピラミッドって宇宙人が念力を飛ばして作ったって節があるんですよ」 「え? 宇宙人?」 「ええ。しかもエネルギーの増幅と備蓄の意味もあって宇宙船の着陸点だとかなんだとか」 「へええ」 青音は出土品にはある程度知識があるが、ピラミッドそのものにはなかったので優奈の話を興味深く聞いた。その様子に彼女はハッとして「意外です。こんな変なことちゃんと聞いてくれるなんて」とはにかんだ。 「面白いよ? 変なことなの?」 「え、ええ。非科学的かなって。ちゃんと証拠がある話でもないし」 「そんなことないよ。十分考察の余地がある話だと思う」 最後に大きな棺を見て出口に向かうと、反対方向に『緊急特別企画室・ピラミッドの謎を解け! 犯人は誰だ!』とのA4サイズの看板が目に入った。優奈はちらりと見て、気づかなかったように顔を出口に向ける。青音も勿論気づいた。がやがやと何人も出入りしているのに、この看板に気づくものが少ないようだ。 「そこで何か企画があるみたいだよ」 青音がそう優奈に告げると「ほんとですね」と何でも無いように答える。興味がありそうなのに素っ気ない彼女に、不思議な気持ちになり青音はそこへ行こうと誘う。大人しくついてくる優奈と一緒に扉を開き中に入る。 「あっ!」 「んんっ!?」 人間かと思ったが人形がうつ伏せに倒れていた。人形の背中当たりから赤い液体が流れている。恐らく殺人現場を演出しているのだろう。黄色っぽい石が描かれた壁紙が一面に貼られ、まるでピラミッドの内部にいるようだ。 壁に張り紙があり「この密室殺人の謎を解いてください。犯人、動機、凶器は何でしょう? 答えがわかった方は受付まで。素敵なプレゼントがあります」と書かれてあった。 「へえ。謎解きかあ」  部屋を見渡している青音をよそに優奈は人形の周りをぐるぐる歩き、しゃがみ込んで唸っている。その姿を、青音は殺人現場よりも興味深く見つめていた。ふんわりとつかみどころのない優奈が、この部屋に入ってからはなんだかキリリと引き締まった緊張感を感じさせる。そういえばと青音は来るときに乗ったバスの中での様子もこんな感じだったかもと思い出した。 ――バスに乗り空いている席を優奈に紳士的にすすめると、彼女は立っている方が好きだというので一緒に後ろの方で立っていた。その時の彼女も、常に何かから身を守るような息をひそめるような緊張感のある雰囲気を出していた。
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