ホワイトシャドウ(旧ピンク)松本白亜(まつもと はくあ)編

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桃香が立ち去った後、明美がネコ雑誌を白亜に見せる。 「なかなかいい雑誌ねえ。癒されるわ」 「癒しかあ」 考える暇もなく、すでに次の予約客がやってきたので、白亜は準備を始めた。  桃香は『もみの木接骨院』にも健康雑誌を配ってから書店に戻った。 「ただいま。配達行ってきました」 「おかえり。すこし休むといい」 「いいですよー。店番してます」 「そうか?」 「ええ」 本に囲まれていることが好きな桃香は、やはりここが一番落ち着くと改めて思っていた。黒彦が事務処理をしようと奥に入った時、入れ違いに女性客がやってきた。滅多に見ないくらいのベリーショートの女性はさっき『ヘアーサロン・パール』にいた人物であると桃香にはすぐわかった。 服装はオフホワイトの柔らかそうなAラインワンピースでフェミニンだ。とてもその髪型と合っているとは思えなかった。どちらかと言えばストレートのロングヘアーがマッチするだろう。 たいして広くない店内をくるりと回り、お目当ての本があったのだろうか。ピタっと止まり棚から一冊取り出す。何冊か読み比べた後、レジにやってきた。 「これ、お願いします」 「はい。ありがとうございます。カバー掛けますか?」 「いえ……」 伏し目がちな女性は静かに本を受け取り、頭を下げて店を出て行った。彼女が立ち去った後、『ヘアーサロン・パール』の甘酸っぱいオレンジのシャンプーのいい香りがしばらく漂っていた。
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