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レッドシャドウ 田中赤斗(たなか せきと)編
忙しいランチ時、厨房で赤斗は何種類もの料理を手掛けている。フライパンを振る姿、スプーンに口づけするような味見をする姿を見ると素敵だと思わない女性はいないだろう。
「桃香ちゃん、これ、黒彦んとこ」
「あ、はーい!」
黒曜書店の桃香にランチタイムだけ手伝ってもらっている。赤斗はもっと長い時間、桃香に手伝ってもらいたかったが同じく黒曜書店のオーナーで婚約者の黒彦が目を光らせ、ランチしに来るのだった。
桃香はいそいそとパスタセットを黒彦のところに運んでいく。
「お待たせしました。パスタセットです」
「ん。ありがと」
「ごゆっくりどうぞ」
一応店内で仕事中なので事務的なやり取りをしてまた厨房に戻ろうとすると、カラカランと店のベルが鳴る。一人の女性が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
桃香はすっと入口に客を迎えに行く。
「お一人様ですか?」
「は、はい」
「お好きな席にどうぞ。あ、暑そうですね。あそこが涼しいですよ」
「ありがとうございます!」
女性は汗を拭きながら桃香の示す席の方へ歩いて行った。
黒彦は桃香の様子を眺めながら(さすが俺の嫁。なかなかのホスピタリティだ)と満足していた。
「赤斗さん、お客様もう一人見えました」
「オッケー。その人で最後だな。外の黒板も下げといてくれる?」
「わかりました」
桃香は冷水を運び、「お決まりの頃に参ります」と女性に告げ、黒板を下げに行った。
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