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ブルーシャドウ 山本青音(やまもと せいね)編
光沢のあるブルーグレーのシャツを着て、姿見に後姿を映している青音に、母親の桂子が目を細める。
「いいじゃない。これならきっとすぐお嫁さんが見つかるわよ」
「だといいけど」
「本当はお着物の方があなたによく似合うけど、ワインとチーズを楽しむのよね」
「うん。洋装も嫌いじゃないから」
「じゃあ、そろそろお行きなさいな」
「もし、カップルになれるようなら帰りは遅くなるから」
「わかったわ! すぐに大人のお付き合いになるかもしれないしね!」
「フッ。お母さん、飛躍し過ぎだよ。じゃ」
「いってらしゃーい!」
桂子は出かける青音の背中を見ながら、恋人が出来ますようにと手を合わせた。
会場の『イタリアントマト』に到着し、受付の茉莉に名札をもらい席に着く。早めに出たので一番かと思ったが女性が一人静かに座っている。まだ二人きりで他にすることもないせいか、女性は青音をチラチラ盗み見ているようだ。青音がはっきりと視線を合わせると女性は俯いた。
(フッ。やはりこういう反応の方が好ましいな)
外国では青音に興味を持つ女性はチラチラ見た後、笑顔やウィンクを投げつけてきた。そしてこちらも微笑みを返し、そのまま二人でどこかに行くというのが通常だった。
青音は直接的なアイコンタクトを嫌うことはなかったが、もう少し含みのあるやり取りを好む。ホラーよりもサスペンス。サスペンスよりもミステリーを好むのだ。
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