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終わりまでのカウントダウン 1
怖い。痛い。苦しい。悲しい。
誰か助けて....。
何度、助けを求めただろうか。
何度も何度も、数えるのが億劫になってしまうほど何度も助けを求めては無視され続けてきた。
まるで、お前なんて救う価値もないと言うように。神様にも見捨てられてきた。
私は誰も居ない部屋で果物ナイフをじっと見つめながら、考える。
もしも、今ここでこれを胸に刺して死んだら解放されるだろうか?この苦しみや恐怖から。
私は所謂妾の子というやつで両親から酷く疎まれていた。
暴力や暴言は日常茶飯事。
生傷の耐えない生活を送っていた。
そんなある日、珍しく母が私に新品の服を寄越してきた。
「ほら、早く着なさい。急がないと殴るからね」
抑揚のない声でそう言い残すと母は部屋から出ていく。
少し考えれば、母が何か企んでいることくらい分かったのに私は新品の服に完全にテンションが上がっていた。
真っ白な一枚のワンピース。
たったそれだけ。でも、それがとても嬉しかったんだ。
今まで母が着古したものしか与えられなかった私にとって、それは宝物のように思えた。
私は珍しく自分の口角が上がっていることに気がつき、それがなんだか可笑しくて笑ってしまう。
『早く着なさい』という母の言葉を思い返しながら、私はその真っ白なワンピースに着替えた。
母に連れられて玄関へやって来るとそこには見知らぬ男性が一人、壁に凭れかかっていた。
煙草を吹かし、鋭い眼光で私を睨み付ける。
本能が『この人は危険だ』と私に告げていた。
だけど、この場から逃げることは許されない。逃げれば、きっとまた母や父に殴られる。
「......金はあとで振り込んでおく。おい、行くぞ」
「ありがとうございます。雫、早く行きなさい。貴方はこれからあの人にお世話になるのよ」
「.....えっ?」
母の言葉に耳を疑った。
母とこの男の人の会話から察するに私は両親に売られたんだと思う。
両親に売られたのだと理解した途端、目端からポロポロと涙が溢れだした。
両親が私をよく思っていないことはきちんと分かってた。分かってたけど、まさか売られるなんて夢にも思わなかった。
泣きじゃくる私の腕を男の人は乱暴に掴み寄せると、無言で歩き出した。
引き摺られるように私も歩き出す。
両親との最後に『さよなら』すらも言えなかった。
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